夜が来る!(アリスソフト)

 「真月」と呼ばれるもう一つの月が夜空に浮かぶようになって三年。初めは騒がれたものの、具体的にはなにも起こらぬために、いつしか人々は関心を持たなくなっていた。
 主人公、羽村亮(名字は固定、名前のみ変更可能)は二年生になった春の日に天文部へと勧誘される。見学のために深夜の学校へ呼ばれた亮は「一緒に戦って欲しい」と言われるのだった。

 いったい何年ぶりか、アリスソフトが発売を延期したソフトです。私の方も数年ぶりのメーカー通販だったもので、がっかり度もかなりのものでした。いやあ、信頼が仇になることもあるんですねぇ。
 アリスのゲームはもともと購入率が高いんですが、今回は世界観とデザイン的な面が非常に気に入ったので購入しました。やはり現代モノはいいですね。
 発売延期と関係があるのかないのかわかりませんが、修正ファイルが出ています。致命的ではありませんが、なにぶん長くプレイするゲームですのであてておくことを薦めます。

 今作はシステム的には「ぱすてるチャイム」(以下ぱすチャ)の続編のような感じになっています。
 月曜から金曜までは訓練。土曜日が相手を選択しての特訓。日曜日が「狭間」と呼ばれるダンジョンに潜る日となっています。このへんはほとんど「ぱすチャ」と同じですね。それにしても週休ゼロ日とは正義の味方も大変ですねぇ。そのあたり毎週デートしたりする「ぱすチャ」は気楽なものでした(まぁ、懸かっているものが違いましたけどね)。
 週末のヒロインとの会話は「ぱすチャ」よりも潤いあるものが用意されています。

 ダンジョンの視点は真上のものから、斜めからの見下ろしに変更されています。主人公がタカタカと走り回ったり、驚いたりする様はなかなか可愛いです。なぜか絶えず風が吹いているのが妙に気になりましたが。
 戦闘は「ぱすチャ」に比べて格段に派手になっています。少々、マシンパワーを必要とするかもしれませんが、それだけの迫力ある戦いが演出されています。掛け声などにボイスが入っているのも臨場感の増加に一役買っています。
 探索は視点が変わっても「ぱすチャ」と概ね同じです。ただイベントダンジョンではその舞台らしい、デパートならデパートっぽい造りになっていて嬉しいです。
 罠や敵の発見にも各キャラの個性がボイスという形で表れていて好印象。ただ主人公だけはボイス無しなんで、そのためのアイテムは主人公以外に持たせるのが吉。ていうか、そうしないと味気なさ過ぎて面白くないです。

 ゲーム期間は4月から12月まで。1プレイが10時間くらい。基本的にはヒロインの人数だけやり直すゲームなので、2度目以降には救済措置が取られていて、データを持ち越すことが出来るようになっています。

 アリスだからと言うべきか、コンフィグ関係は今一つです。相も変わらずロードはタイトルからしか実行できず、ゲーム中はタイトルに戻ることが出来ません。はっきり言って不便です。今作は日曜のダンジョンに潜る前にしかセーブできないので尚更です。
 このへんの足回りはなにかこだわりがあるようで、改善はなかなかされなさそうですがやっぱりツライです。
 何度となく、イベントやダンジョンの最中に出勤の時間になりましたし。特に学園祭前から最終章のくだりは長すぎです。もう少しなんとかならなかったんでしょうか。
 あとジョイパッドにも対応して欲しかったですね。マウスでプレイすると肩が痛くなるんですよね。クリックのし過ぎで。

 シナリオはRPGなのにか、RPGだからなのかわかりませんが、各キャラでの変化に乏しいです。
 このゲームでは本質的に事態というものが変わることがほとんどありません。なにが起こっても問題となるのは主人公が関与できる位置にいるかどうかで、いればその事態(イベント)を知ることが出来る(だけ)。いなければ後から、すでに終わったものとして聞かされる、という感じになっています。それでも関与できるならまだマシで、実際には誰のルートでも関与できないイベントもあったりします(つまりただの小話か?)。
 大げさに言うと主人公がいようがいまいが、ほとんど状況が変わらないんですよね。個人的には主人公の存在でイベントの内容がハッキリと変わるほう(マルチシナリオ的)が好みなんで、どうもスッキリしなかったです。
 まぁ、そうした作りなっているにも理由があるようで、今作の主人公は「ドラクエ」的なんですよね。セリフがない訳ではありませんが、モノローグも含めて自己主張が少なく、状況に対して常に受け身になっています。ヒロイン全員からも見事に告白されるという受け身っぷりですし(しかも、それから相手が好きかどうか考える)。
 主人公に限ったことではありませんが、各キャラクターたちから、これまでどう生きてきた、これからどう進んでいく、というような主張がほとんど感じられません。それゆえなにかを決意した際に言うセリフに違和感を感じてしまいます。特にラスボスに向かっていきなり啖呵を切る主人公には唐突すぎて正直、ついていけませんでした。

 CGはさすがアリスと言いたくなるほどの高品質。Karen氏の原画は相変わらずの素晴らしさ。MIN-NARAKEN氏と並んでアリスの顔になりつつありますね。
 ただホッシーのCGがないことがなんとも残念です。新開ゴリラはあるのに。

 音楽はShade氏が担当。そのレベルの高さは今更、言うまでもありません。今作も素晴らしい曲の数々を用意してくれています。個人的にはゲーム中で使われる曲もCD-DAだと良かったのですが。
 オープニングにはボーカルがついています。アリスもそろそろこれがスタンダードになるんでしょうか。正直、「Seen青」のボーカル曲はイマイチだったのであまり期待していなかったのですが、そんな懸念を打ち破るような作品にピッタリの曲です。唯一の不満はオプション等で自由に見れないことですか。
 ボイスは男も含めて全員に用意されています。キャスティングにはこだわりのあるアリスだけに、レベルが高いだけでなくキャラに一致した声優さんを起用しています。例によってエンディングにも名前は出ませんが。
 なかでも鏡花の声優さんはキャラをよく把握して、いい演技をしています。それだけにフルボイスでないのがなんとも残念です。

 まとめ。「ぱすチャ」の反省が随所に生きています。繰り返しのプレイに対する配慮もされていて、ストレスなく楽しめます。もう少しヒロイン毎の個別イベントが序盤からあるとなお良かったです。
 お気に入り:七荻鏡花、キララ
 評点:78

 以下はキャラ別感想。ネタバレかなり注意。








1、火倉いずみ
 スタッフの方も言っていますが、メガネのあるなしでもう少し違いが出ると良かったのだけれど。本筋に絡むメインヒロインであるためか、通常イベントの少なさは随一、のような気がします。
 しかし、メガネであることをさっ引いても彼女はメインらしくはないような。鏡花やマコトのシナリオの方が起伏があって印象が強いんですよねぇ。

2、七荻鏡花
 いいですよね、こういうノリの良さ。キャラが抜群に立っているので会話の楽しさは他キャラの追随を許しません。フェイスウィンドウの表情もピカイチでしょう。チロとのコンビもいい感じです。
 シナリオの本筋のほうはやや難ありか。
 他キャラのシナリオにも共通することだけど、ソウジがいずみの兄とわかってからの告白がやや不自然。皆の結束が問われるシーンな訳だけど、プレイヤーとしては?な感じ。あらかじめ光狩サイドで前振りがあるとはいえ、衝撃の事実という印象が薄いんだよねぇ。
 もっと普段から正義の味方を強調するとか、少しでも不自然な点があればわかるのだけれど、こんな状況では隠し事のひとつくらいはあって当然。何より隠し事があるってことはすでに知っている訳だし。
 鏡花についても能力に対する悲壮感がやや弱め。
 それ以上に主人公。能力のせいで友人が出来ないといったくだりは明らかに変。ていうか、いずみに指摘されるまで能力には気づいていないように見えるんですけど。仮に知っていたとしても苦悩している様子はゼロだしなぁ。
 屋上で月夜のダンスというのはこのゲームで一番のお気に入り。そのあとHシーンにつながる流れも、普段は見せない鏡花という感じでいいです。
 しかし、キャラは気に入っているのだけれど、エンディングはもう一つ。
 ソウジとの決着前に自分を取り戻すと言っていますが、わかったのは美里に関する事実のみ。どうしてソウジが鏡花の記憶を消したのか? といったあたりはまるでわからない。問題はネクラと呼ばれた鏡花と今がどうつながるのか、そしてそれをどう受け止めるか、ではないのか。
 ラストも主人公はおいてきぼりで、鏡花エンドというより美里エンドという感じ。
 それにしても鏡花の力はチロで抑えられているとのことですが、それであの強さ。護章を持ったら一体どれほどの強さになってしまうのでしょうか?

3、三輪坂真言美
 「~なのですよう」という口癖がなかなか小気味いい感じ。ボイスの効果も高いです。
 ウォーレンジャーのイベントはどうも懐かしいゲーム「きゃんきゃんバニーエクストラ」を思い出してしまいましたね。
 そういや初登場のシーンの曲はHシーンの曲と同じ(笑)。

4、祁答院マコト
 出るまでが長い。仲間になるにはさらに長い。繰り返しプレイにはしんどい感じ。
 それにしても役割といい、性格といい、某小説のあるキャラを思い浮かべずにはいられません。霧○凪?
 シナリオは一番ドラマチック。しかし、最もご都合主義か。コウヤはどうしてキララを誘拐したのか全然わからないんですけど。

5、新開健人
 アリスの会報にも書かれていましたが、まさにゴリラ。なんつーか他に形容しようがない感じ。
 最終決戦前の無精髭バージョンのほうがイカス。しかし、あそこで回収しないと行方不明のままエンディングを迎えるという不憫なキャラ。使いにくいしね。

6、星川翼
 今作の男性陣は一人残らず見た目と性格が同じ。ホッシーも見たまんま優男。鏡花とはいいコンビだけど(能力的にも)、主人公とは違ってツッコミが出来ないのが難点か?
 エンディング後には仲間からロリコン扱いされたりするのでしょうか。気になって夜も眠れません。

7、百瀬壮一
 すいません。使っていません。個人的にいずみはそれほど好きなキャラではないのだけれど、それでもモモちゃんのリアクションはなんか嫌だなぁ。最も新開ゴリラのほうが嫌ですが。
 キャラデザ的にはラフ画のメガネをかけた兄ちゃんのほうが好きですね。

8、羽村亮
 お願いですから、もう少し能動的に生きてください。Hシーンのときだけ張りきられてもねぇ。
 顔を見せるのか、見せないのか、もう少しはっきりして欲しかった。どうも全体的に中途半端な印象。

9、キララ
 この娘の名字はなんと言うんでしょうね?関西弁を使ってますが、そもそも日本人なんでしょうか。髪は金色だけど日本人というのはエロゲーでは珍しくもないですし。
 鏡花と同じでエンディングが不満。マコトとの仲直りや現実へどう立ち向かうかが楽しみだったのに。ああ、それなのに無情にも時は川のように流れて数ヶ月。悲しいです。
 それにしても方言キャラはボイスがあると無しではまさに雲泥の違いがありますね。