夜明け前より瑠璃色な(オーガスト)

 月はどこからも見えるがどこよりも遠いお隣さん。月に興味を持つ朝霧達哉(変更不可)は従妹と義妹の3人暮らし。平穏そのものの家に従妹がある日、とびきりの爆弾を放り込む。月の姫のホームステイ先は朝霧家。家族会議なしにこれを決めた従妹は大物かはたまた天然か。果たして達哉の未来の行く末は。

 およそ2年ぶりのオーガスト第4弾(ファンディスクを含めれば第5弾)は同居もの。実に条件付きながら全てのヒロインが同じ屋根の下で暮らします。格言は朝霧家をくぐらぬ者ヒロインに非ず(3秒でつけた)。
 初回特典はアレンジCDとオフィシャル設定画集という恒例になりつつある2つ。相変わらずサービス精神旺盛というかマニュアルに力を入れる姿勢は好感が持てます。
 購入動機は未だによく分かりません。あまり積極的な理由ではないんですが、やはり絵買いでしょうか。べっかんこう氏のエロ絵の変遷が気になってます。

 ジャンル(名)のミニマムカテゴライズはオーガストのこだわりかと思っていましたが今回はなしのようです。あえて探せば「蒼月の恋愛ADV」という記述がありますが、どうもこれはアオリというやつで違うっぽい。
 中身の方は限りなくいつものアドベンチャースタイル。が、演出面は大幅に強化されていて幻想的な雰囲気の出し方などもバッチリ。ただ、基本的にのほほんとしたゲームなので、視線を感じる→水平に目許の描かれたカットイン→垂直に(十字を描くように)後ろ姿の立ちCG、なんて緊張感ある演出は似合わないと思います。原画だって誰が見ても可愛い系ですから。
 足回りはかなり完成度が高くなりましたメッセージスキップは既読未読を判別して非常に高速、シナリオは長いですが個別シナリオ突入後にほぼ共通部がなくなったのでほとんど気になりません。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。戻れる量も多くなり、ロード直後にも使用できるようになりました。あっさり風味のシナリオではちょっと間をあけると忘れることもありなかなか便利です。

 シナリオは良くなって悪くなりました。もう少し詳しく書くと最高得点は上がったが最低得点は下がった、というところでしょうか。シナリオサイズは「月は東に日は西に」同様に大きめ。分量に対して情報密度が低いのもそのまま。
 本作はなにはなくともフィーナ姫、です。彼女だけが良くも悪くもメインヒロインと呼ぶに相応しい存在だったりします。自分のシナリオの場合は問題ないのですが、他人のシナリオとなると彼女は魅力あるサブキャラにはなってくれず、何もせずともいるだけで存在感を放ってしまう不思議なポジションを担うことに。正直、他ヒロインのシナリオは正伝に対する外伝にしか見えません。ボリューム的にもHシーン的にもそれだけの格差が出ていますし。
 シナリオレベルにも似たようなことは言えて、フィーナシナリオはこれまでのオーガストにはないほど読ませるシナリオになっていますが、反対にリース、ミア、さやかシナリオはかなり厳しい仕上がり。特にさやかシナリオは人物の動きや心理描写がメチャクチャ。ノリまで違ってとても同じゲームのシナリオとは思えません。
 日常会話はこれまでのオーガスト流を継続。笑いは控えめ、イベントも控えめで相性は過去作をプレイしていれば測れるでしょう。ただ、ヒロインが全員主人公宅に集うせいか学園描写は質、量ともに前作に比べて少なめなので要注意。
 惹かれ合う過程はあると言えばある、ないと言えばない程度。一部シナリオではどこを探しても全く見つからなかったりしますが。
 Hシーンはフィーナだけがお姫様特権で6回と多く、残りは2~4回程度。庶民との格差を見せつけています。

 CGはイベントCGよりもむしろ立ちCGや背景に力が入っているのでは、というくらいの出来映え。それくらいの気合を感じます。見る時間が最も長い立ちCGの出来が良いというのは喜ぶべきことです。衣装、ポーズともに多く、ヒロインたちの可愛らしさに磨きがかかるとともにHシーンへの期待にもうまく繋がっているかと。今回はフェイスウインドウだけのカットも用意されていて、それがいい味だしてます。
 背景も世界を示すに充分な仕上がり。個性的で手抜きの感じられないところに好感を抱きます。欲を言えばもう少し広く世界を見せて欲しかったですが。
 立ちCG、背景ともに鑑賞モードに登録されます。フラグの面倒さからか見られるようになるのはクリア後ですが。この機能はどこのブランドもスタンダードにして欲しいところ。
 イベントCGはノーマルよりもHシーンに多く、といった配分。毎回試行錯誤があるのか主にエロに関する塗りに違いが見られます。原画的には今回もべっかんこう氏の得手不得手が出ているようでフィーナ、リース、ミア、さやかは得意で麻衣と菜月は慣れていない、といったような安定度に開きが感じられます。
 エロ度にはいつも通りかなりの頑張りが。純愛系でここを追い抜くのはなかなか大変そうです。ただ、個人的にはやはり「プリホリ」の時が一番エロかった気がします。

 音楽はいつもどおりの無難な旋律、といった印象。プレイ中は覚えていますがクリア後となると……、というところ。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技に特に問題はなくレベルも高いです。中でもフィーナ姫役の手塚まきさんの演技は声から威厳が感じられて感情移入を助けてくれます。

 まとめ。オーガストの分岐点的作品。まさに選択肢が出ているといった状況。浅く広くの道を進むか(前作まで)、ある程度は狙いを絞っていくのか(本作)。シナリオは平均、最高点ともにさらに上を目指すかそれとも、か。次回作が気になるところです。
 迷っている方は体験版などをプレイした方が良いかと。特にフィーナ姫との相性は重要かと思いますし、作品の概観がかなりつかめると思うので。
 シナリオが良くなったとは言ってもあくまでオーガストでの話。一般的な視点で見ると「シナリオの良いゲーム」への道はまだまだなので期待しすぎはいけません。もちろんSF好きな貴方は手を出さないことが賢明でしょう。
 お気に入り:鷹見沢菜月、朝霧麻衣
 評点:60

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、フィーナ・ファム・アーシュライト
 「プリホリ」のレティシア姫との差別化は意識した通り図られているようでそこは○。威厳を感じさせる声優の演技も良い感じ。キャスティングかはたまた演技指導の勝利でしょうか。
 お姫様がホームステイ、留学といった要素は消化不良気味。特に学園の方はかなりついでのイメージが強いのは残念。というか本来、達哉に会いに来たのではない訳でそうすると一体どの辺りを持って有意義な留学であったと言い切れるのか。物語の都合で片づけるにしてもせっかくの設定なのだからもう少し効果的なイベントを用意して欲しかったです。実際、まともな学園イベントってないしねぇ。
 Hシーンにも似たようなことは言える。制服を用いたものなんかも学園に通わなくなってから、というのもなんだか。最後のもすることないからしてました、ではもったいなさが漂っている気も。
 シナリオは前半部の方が、達哉がきちんと主人公していて良かったです。後半部はほとんど何もしていないためにプレイヤーのテンションは低め。終盤の決意にしてもカップルとしての形や正しさがひとつしかないと言っているようで共感できませんでした。
 フィーナに凛々しさを感じれば感じるほど主人公のスペックに疑問を感じてしまう。この程度で「私にはあなたがいるわ」とか仰られても、ねぇ。

2、ミア
 えーとまぁ、シナリオにはツッコミどころが満載な訳でして。これも主人公が何もしないというかミアに丸投げ、といった風情。遠距離恋愛をする気が1%もないところが達哉くんの恐ろしいところです。まぁ、あれだけ相手の無知につけこんで落とせばそうした考えになるのも無理ないかもしれませんが。
 立ちCGの小さくなっている彼女はバランスが悪いのか、何度見ても奇妙に映ります。頭の大きさの問題かなぁ。

3、穂積さやか
 やる気があるのか問いたくなってくるシナリオ。Hシーンに至る過程はどこのお手軽ゲーですか、と。若さゆえの暴走で済ませるにしても心までなし崩されてしまう姉さんはどうかなぁ。こんな様子では麻衣シナリオであんな態度をとるのは、弟に先に手を出されて悔しいからではないか、とか邪推してしまいますよ。

4、リース
 取りあえずエセ魔法少女みたいな終盤の衣装だけはなんとかして欲しいところ。あの姿でHシーンがなくて良かったと思ったのは私だけですか?
 鰯の揚げたものと、たっぷり野菜を和えたマリネ、トマトの赤も鮮烈なボンゴレロッソ。これが子供の気を引くために吟味して用意したメニューですか? 下手したら何一つ口にしない可能性もあるメニューのような。
 ロリつるぺたはそう見えるだけで基本的に(どこかが)年寄り。どうやらこれがオーガストにとって譲れない公式である模様。

5、朝霧麻衣
 出しゃばりすぎず地味すぎず。絶妙のポジション取りが勝利の秘訣か、天性のバランス感覚の持ち主。立ちCGの出来はもしかしたら全キャラ中、随一の仕上がりかも。とにかく基本カットの出来がいい。下手したらどのイベントCGよりもこれの方が可愛いかも。というか私はそう思ってます。しかし、それが仇となったかHシーンの各表情にはかなりのばらつきが見られるのが惜しい。
 シナリオは中途半端に真面目な問題に取り組むのがどうでしょうか、という感じ。基本的にこれに対して解決法なんてないですからねぇ。町内会から祝福されるなんて無理だし。なぜ、この問題に対して他の作品が取り組まないのか考えるべき。

6、鷹見沢菜月
 義理の妹とお隣の幼なじみは相性が悪い、というのが私の基本的な認識です。本作ではうまくやっている方ですが、それでも菜月はご近所さんでほとんど問題がない。それは言うまでもなく隣り合った窓を菜月シナリオ以外でほとんど活用することがないから。
 距離の近さを示すのがその存在意義のひとつかと思うのですが、お隣は所詮、お隣。寝食をともにする義理の妹には到底、及ばない。三角関係にするならまだしも。実際、隣の家に住んでいるというほどの近さを菜月からは感じない。麻衣に対抗するためには菜月の方から主人公を日常的に呼びつける、くらいは必要だったのではなかろうか。窓開けて一緒に宿題やるとかね。
 まー、そんなことを書きつつも彼女が良キャラであることは間違いない訳で。瞬間沸騰スキルとかとても良い感じです。ただ別段、主人公のことが好きな訳ではなかった、というのはマイナスポイントではないでしょうか。冷やかされていたことが無意味と言いますか。
 フェイスウインドウの魂の抜けたようなカットがお気に入り。