月染の枷鎖-the end of scarlet luna-(ひよこソフト)
都会から田舎へと引っ越してきた鏡蓮耶(変更不可)。地域独特の暮らしにも徐々に慣れ友人もできるようになった。けれど、引っ越しの動機であった亡き母のことを調べるに連れ、周囲には不穏な空気がつきまとうようになっていく。果たして、村に隠された儀式とは。
ひよこソフトのデビュー作はなんとも男らしい仕様の伝奇アドベンチャー。
購入動機は新ブランドの応援と企画に興味を持ったので。実は伝奇要素を含んだミステリーかと思ってました。
初回特典はラフスケッチ集。どうでもいいですが、パッケージ上からは初回版であることはわかっても特典が何であるかわかりません。
ジャンルはおなじみのAVG……、と言いたいところなんですけど本作はゲームではありません。選択肢が本当にひとつもない、ただ読むだけの作りをしています。プログラム的には各所で色々と楽でしょうが、これをデビュー作に持ってくるあたりちょっと驚かされます。
足回りはデビュー作らしく使い勝手が悪いです。メッセージスキップは既読未読を判別して高速ですが、既読文を読む機会そのものがないのであまり意味はありません。
バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。ロード直後にも使用できて、そこそこ戻れますがシーン切り替えや章をまたぐとリセットされてしまうことがあるので実際にはあまり実用的ではありません。
文字速度でNo waitが選べないのは困りものです。後述しますが本作はクリック連打したくなる要素を強く抱えた作品なので。
システム回りの効果音がなぜかとても大きな音で設定されています。しかも、環境設定の効果音にはこのシステムの効果音が含まれていないらしく調整できません。わりと甲高い音なのでなかなか困ります。
シナリオはすでに触れたように完全無欠の一本道。序章と1章から4章までの五部構成ですが序章と1章は繋がっているので実際には四部構成と言って差し支えありません。章が終わるとタイトルに戻るスタイルを採っています。
1章の途中で薄々わかってしまうことなので書いてしまいますが本作はループものです。つまり、都合4周することになりますが、これが本作の特徴であり難しいところでもあります。ループものと言っても本作はどこが前周と違っているのか細かく注視するタイプではありません。大筋がわかりやすく変わるタイプです。けれど、文章としては同じであることを示さなければならない、つまり同じ文章あるいは同義の文章を周回毎に読むことになります(省略されるところもあります)。もちろん、未読文扱いですからスキップは作動しません。もどかしく感じるところです。
日常の掛け合いは意義こそ感じられますが、中身が薄く盛り上がりに欠けます。およそ笑いと無縁であるのも厳しいところ。欠かさずあるがゆえに周回の弱点になってしまっています。
惹かれあう過程はとても苦しいです。なにせどの周回も基本的な筋書きは変わらないにも係わらず恋仲になる相手が変わるのですから。率直に言えば主人公は近くにいる人を好きになる、という感じですか。ついでにメインヒロインが攻略できないのでとても困ります。
デビュー作ゆえか全体的に不自然さのようなものが各所で感じられました。キャラクターの感情の起伏(特に主人公)や展開がそれで腑に落ちないと感じることが多かったです。筋書き優先に見えるといいますか。
構成のせいか非常に先が読みやすいです。シナリオが繰り返される作品としてはちょっと苦しいものがあります。どう変化していくかもわかりやすいためエンディングへの牽引力があるとは言い難いです。
作品作りの手法そのものは問題ないのですが企画実現のための実力がまだ不足しているように見えます。
Hシーンは純愛も凌辱も弱めです。両者とも目当てとするには苦しいものがあります。
CGはイベントCGがとても豊富です。特に時間あたりの枚数は驚くほどの多さがあります。コメディシーンなどよくもまぁ、こんなものに、というものにまで用意されています。反対に背景はそれほど多くありません(イベントCGが補っている部分が多いからですが)。
テキストと同様にCGもエロ度、枚数に期待してはいけません。
音楽は硬軟自在の曲が用意されています。田舎の風景を想起されるような重さを感じさせる曲調は世界観の役割を十分に果たしています。サントラが付属していないのがとても残念です。
ボイスは主人公を除いてフルボイス。音声ボリュームに難があるキャラクターがいますが、演技の方はおおむね問題ありません。
まとめ。デビュー作らしい荒削りな作品。とても割り切った作品なので好き嫌いがハッキリ出そうです。個人的にはユーザーの反応や反省を踏まえてどんな次回作を作るのか楽しみです。
お気に入り:雨音
評点:65
意外と思い入れがないのでキャラ別感想はありません。