痴漢者トーマス(XUSE)

 ハローワークに通っているのかいないのか不明の遠山万寿夫(通称:トーマス、変更不可)は失業中。不採用の日々にイライラしていた万寿夫は偶然も重なって痴漢行為を働いてしまう。ところが、被害者は騒ぎ立てるどころか、じっと我慢するのみ。周囲も気付かないか、見て見ぬふり。
 いわゆる味をしめた瞬間、すなわち痴漢者トーマスの誕生であった。この日から就職活動は明後日の彼方。日々、痴漢生活に突入するトーマス。生活費をどうやって稼いでいるかは謎のまま。

 わかるようでなんだかわからないXUSEのブランド区分けによる吟醸作品。雑誌などのインタビューによると開発状況が中途で大幅に変わったらしく、それによって今の姿になったのだとか。結果として、それは私が買う気になるほど馬鹿っぽいゲームでした。
 初回特典はサントラCD。気のせいかXUSEの特典はこれが多いような気がします。いつものように私は開封していませんけれども。

 私の環境では特に何もなかったのですが、強制終了対策として修整ファイルが上がっています。まぁ、起きないに越したことはないのであてておきましょう。

 システムはSexually Sensitive Area Developmentシステム(通称S.S.A.D.)だとか。日本語訳は性感帯開発システム。一体どこから突っ込むべきなのかよくわかりませんが、こういう名称、特に略称は馬鹿ゲーに必須の要素かと。
 少しまともに書くとマップ上のポイントを日に4回、選択して移動。ヒロインを探します。その姿はマップ上から確認可能。従来のゲームにありがちな仕込みはありません。いきなり痴漢することが可能。代わりにハズレとなるダミー表示があります。
 うまくヒロインに会えたらそのまま痴漢フェイズに移行。それまでは従来通りのアドベンチャースタイルで進行します。上で書いたシステムは微妙にこれまでの痴漢ゲームと変わっています。
 フェイズ開始前に奥義を使うかどうかの選択をします。奥義はヒロインの快感度を上げやすくする、主人公の経験値を上げやすくするなど補助的なものです。主にレベルアップ時に覚えていきます。発動時に主人公のボイスと共にカットイン演出が入りますが、基本的にみな同じなので面白味はなし。つまらないことですが、奥義っていうのは最初に使うものでしょうか。
 主人公が選択可能な痴漢行為(触る、揉むなど)を選ぶと、その行為に応じたポイントが体の各所に表示されます。さながらガンシューティングのロックオンサイトのように。そのサイト、ロックマーカーはポイントによって見た目と意味が異なります。マウスを任意の方向にドラッグする、一定方向にドラッグする、押しっぱなしやクリック連打など。主人公の行為によってヒロインは体の各所に設定された開発度が上がっていきます。
 これにヒロインのエモーションシグナルというものが絡んでくることによってアクションゲーム的な様相を呈しています。
 そのエモーションシグナルとはヒロインの8段階の感情。簡単に言えば気持ちいいかどうかで、大切なのは同じ行為を続けられると感度が鈍くなってくるということ。やり過ぎるとせっかく上がった快感度が下がってしまいます。制限時間の縛りもありますので、マウスアクションは素早く的確に、が重要になります(遅いと快感度が上がらない)。これがまさにアクションゲーム風味。難度の低さと紙一重の馬鹿っぽい部分アニメーションも相まってかなり愉快です。
 痴漢フェイズは3~4シーンで構成されていて、責め方によって脱衣箇所が変化します。1シーンが終わると脱衣、仕切り直して続行という形で進行。場合によってはその後のシーン展開にも影響を及ぼします。
 主人公のレベルは2周目以降に引き継ぐことができますが、難易度自体が低いのであまり意味はありません。
 
 足回りはほどほど。メッセージスキップは既読未読を判別した上で実用的なスピードを実現しています。しかし、使う機会はそれほどないので有り難みを感じにくいですが。
 メッセージの巻き戻しは別画面で行います。ボイスのリピート再生もしてくれますが、分量はあまり多くありません。最近のゲームということを考えるとホイールマウスに対応していないのはやや不便なように思います。
 タイトル画面に追加される再痴漢モードはこのタイトルの本質をスタッフが理解しているようで好印象。こういうのは息抜きに最高だと思います。

 シナリオはこのゲームであまり大きなウェイトを占めていない感じがします。それは別にテキストのレベルが低いとかいうことではなく、全体の企画意図としてヒロインに関しては基本に忠実であまり奇抜なことをしないでおこうという雰囲気が感じられます。
 というのも全ては難易度の部分からなのですが、すでに書いたようにだいぶ易しいです。これはアクションが結果に反映されやすいシステムのことを考えた末だと思うのですが、同時に説得力というものを失っています。つまり、仕込みもなく最初は痴漢見習いに過ぎない主人公があっさりヒロインを快楽の虜にしてしまうというあたりが。
 痴漢ゲームにありがちな現象であるとはいえ、あまり個性的かつ印象的なヒロインを配置してしまうとより説得力の喪失がより大きなものになります。それを少しでも避けるために基本ラインに近い、悪く言えば個性の薄いヒロイン群になったのではないかと。
 こんなことを書いておいてスタッフの意図がまるきり違っていたら、すなわち個性的なヒロインを配置したつもりであるならお笑い種ですが。
 痴漢ゲームにしては舞台がバスや電車といった公共機関に限らないのは珍しくてよろしいかと。墓地とか。剣道場とか。

 CGは美しいですが、原画的にヒロインの顔の描き分けがもう一歩。シナリオの項で書いた意味では良いことだとは思いますが。それとカットによって多少のバラツキが見られるのは残念なところです。

 音楽は痴漢ゲームらしからぬ曲が揃っています。むしろ穏やかな曲が多くて驚くくらいです。
 ボイスは全体的にいい仕事をしています。特に主人公の声が秀逸。コンティニュー時、レベルアップ時、それに奥義発動時くらいしか喋りませんがなかなかに笑わせてくれます。痴漢フェイズ開始時の女性ボイスもまるで競技のようで効果的です。

 まとめ。テンポも良く息抜きに最適な作品。いわゆるお手軽ゲーに分類されるのでいつものアドベンチャーに飽きた方、大作に疲れた方にオススメ。
 お気に入り:トーマス(やっぱ彼しかいないでしょう)
 評点:60

 上で書いた文意通りなのでキャラ別感想はありません。