輝光翼戦記 天空のユミナ(ETERNAL)
朱島歩武(変更不可)は幼い頃より血のつながらぬ父に常軌を逸した育てられ方をしてきた。それはサバイバルに始まり、劣悪な環境で生き抜くための苛烈な特訓の数々。何度逃げ出しても連れ戻され、血の滲むような日々に逆戻り。やがて少年は嫌でも逞しく成長していった。
ある日、そんな父がけったいなことを言い始めた。学園に通え、と。本来ならそれは至極当たり前のこと。だが、歩武にとっては初めてのこと。何かの罠としか思えなかったが、父が突きつけた言葉はたったひとつだけ。
「翠下弓那という少女を守れ。なぜならば彼女こそ世界を守る救世主だからだ」
うさん臭さ全開であったが、もとより歩武には生まれてこのかた拒否権など存在したことがない。警戒しながら神撫学園に通う歩武だったが……。
ETERNALのデビュー作は驚愕するほどのボリュームを誇る、その名も超銀河級・総選挙RPG。迂闊に手を出すと火傷するぜぇ! くらいのアオリが入っていてもいいのではないかと個人的には思いました。
購入動機は今から思い返すと自分の軽率さに呆れ返ってしまうような、1月4週発売のソフトまでの繋ぎとして軽い気持ちで。
初回特典は弓那でもわかる輝光翼戦記のひみつ、ユミナ留年回避祈願!携帯クリーナーお守り、アイ・オキツのミュージックシャワー。予約キャンペーン特典はボーカルコレクション。ちなみにパッケージの大きさ以外に通常版と見分ける方法はありません。
修正ファイルが出ています。複数修正の中にはとても重要なものが含まれているので必ずあてましょう。必須です。ファイルは段階的に更新されています。ちなみにこれでも私の環境ではたびたび強制終了が発生しました。
ジャンルは通常のアドベンチャー+RPG。アドベンチャー部には特別変わったところはありません。ただ、わりと節操なく立ちCG+バストアップ(フェイスウインドウ)とSDカットによる寸劇が切り替わります。
RPG部はワールドマップのようなものはなく、ダンジョンと戦闘、それに成長要素から構成されています。
ダンジョンは3Dマップ。自動マッピングはありますが、マッピングした範囲でも自分のいる限られた範囲しか見ることはできません。マップは自動作成型なのでパターンが似通いやすいです。全マップ制覇とかを目指すタイプのゲームではありません。とにかく先へ進むことが基本となる作りをしています。
一風、変わっているのがダンジョン探索時の演出ウインドウ。画面上部にいるキャラクターたちが状況に応じて色々な動きをしてくれます。例えるならパチスロなどがイメージとして近いです。他にもダンジョンの場所や階層に応じて様々な掛け合いを披露してくれます。ランダムなので同じものが連続で発生する、なんてこともしばしば。
クリアに直接関係のないクエストも用意されています。ただし、これに絡む会話が一切ないので潤いにとても欠けている印象です。ご褒美も弱く挑戦意欲をあまり刺激してくれません。
操作はキーボードの方向キーに対応していますが、マウスも含めてそれだけでは少々、大変です。長時間&多くの機会があるのでゲームパッドがあると楽になります。
ダンジョンモードは本作で最も長い時間を費やす部分で、ここで入手したアイテムの整理も含めるとプレイ時間の7割以上がかかります。作品全体を俯瞰するとちょっとここに比重がかかりすぎているように感じました。操作性に関してもまだまだ洗練できる余地があるように見えます。またプレイ時間のウェイトに対して、このダンジョンに潜る異世界編がメインの物語にほとんど絡まないことも問題です。
戦闘はターン制のコマンド入力型。青、赤、緑、黒の4色が原則で敵も含めて各キャラは基本的にこのどれかに属し、そのパーソナルカラーのスキルしか使用することができません。本作では攻撃も防御もそれ以外も全てをスキルによって行います。感覚的には全てが魔法というイメージ。どんなスキルも回数制限があります。
スキルの行使には各カラーのオーディエンス値が必要です。これは敵味方共有のMPのようなもので、(同じ戦闘中は)総合数値は変わることなく、その中で各カラーの占める割合が変わります。例えば、青のスキルを使えば青のオーディエンスが減って、残りの赤、緑、黒が増える、といったような。
各スキルには必要なオーディエンス値があり、コマンド選択時にそれをプールしていなければ選択できません。それだけに留まらず、コマンドが進行していく間も数値の増減が起こり、実際に使う際にもオーディエンス値は必要になります。足らなければファンブルとなり攻撃できません。
ざっと紹介しただけでも想像がつくようにこの論説バトルシステムは戦術性が高く、想像以上に奥が深いです。通信対戦で人間対人間ができればかなり盛り上がるだろう、くらいに。ただ、時折バグが起きているのか正常(ルール通り)に進まない時があるのが玉にきず。潔く諦めるくらいの割り切りが大事です。
さらに相手がモンスターでなく、人間である時に重要になってくるのが支持率で、これを満たすことが選挙戦で勝利するための条件となっています。人間を相手にした時には相手を倒す=論破であるのですが、それだけでは不十分でその前に支持率を上げる必要があるのです。支持率は使用するスキルによって増減します。強力なスキルで圧倒するだけでは支持は得られません。例えるならロトの剣が手に入ってもひのきの棒を捨ててはいけないのです。それぞれに応じた役立ち方がありますから。
戦闘を繰り返すことでレベルが上がっていきます。レベルを上げるほど楽に進めるようになるのは本作でも変わりありません。2周目以降はレベルとスキル、アイテムの引き継ぎがあります。
ダンジョンの長さは言いかえれば戦闘シーンの長さでもあります。SDカットのキャラたちが画面狭しと派手に動き回る様は見ていて楽しいですが、等倍で進めていると莫大な時間が必要になります。Ctrlキーで高速化できますが、慣れないうちは何が起きているのか把握できないのでおすすめできません。慣れたらCtrlキーの上に重しを置くくらいの姿勢がいいでしょう。
足回りはデビュー作らしくかなり弱いです。メッセージスキップは既読未読を判別してくれますが、速度は平均程度。選択肢後もスキップを継続する機能はマップ移動の選択時には適用されないのでほとんど意味がありません。
バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですが、それほど戻ることはできません。ロード直後にも使用不可。
たいへん残念ながら本作は起動ディスクが必要です。なまじプレイ時間が長いだけに影響も小さくありません。
ボリュームは凄まじく既読スキップ使用に戦闘はそのままでボイスをまともに聞くと150時間近くかかります。途中でヘマをすれば到底これに収まりません。覚悟してのプレイが必要でしょう。習熟度にもよりますが、わからないところは決定的にわからないのと確認にも時間のかかるシステムなので難易度はかなり高めかと。
ヒロインルート3周と完結編から構成されています。ちなみにダンジョンの異世界編にもエンディングに相当するものがあり、完結編にはこれも必要です。
シナリオは複数ライター制の弊害があからさまなほどに出ています。どのライターも掛け合いは悪くないのですが、設定と世界観を活用する能力、プロット作成あるいは実現能力に大きな開きがあります。共通の設定を使用してそれぞれのライターが好き勝手に仕上げたようにさえ感じることも。加えて1本のシナリオでは全貌がつかめずに徐々に明かしていくスタイルを採用していることが却って混迷を深める要因になっています。中でも黒河雲母シナリオがご都合主義が強すぎて足を引っ張っている印象です。
ジャンル名が示すように本作は学園編と宇宙編から構成されています。どちらもそれぞれに持ち味がありますが、両方があまり有機的に繋がっておらず寸断されてしまっている感があるのがもったいないところ。なまじ長い物語であるのでもう少し繋がりがあると思い入れもより深まりそうなだけに気にかかります。
全体を通して掛け合いは非常に秀逸。打てば響くようなテンポでシリアスもギャグもこなしてくれます。ダンジョンの会話もそうですが、長丁場を乗り越えるだけの魅力になっていると感じました。あまり特定のネタに頼りすぎないのも好印象。ただし、学園編とは言っても選挙活動しかしていないので(描写がないのではなく、設定上も授業などがあまり行われていない)日常描写は通常の感覚での非日常だったりします。よって学園ものらしさは意外と薄いです。なにせ二ヶ月とか選挙活動してますから。
ルート分岐が起きるのが宇宙編に入ってからのためか、惹かれあう過程はとても強引です。恋愛とはとても呼べないようなものまで混ざっています。繰り返すようですが、ボリュームがボリュームだけにしっかりした下地がないのは残念。
Hシーンは本作の弱点にあたるポイントです。プレイ時間をHシーン数で割るとひとつあたりの頻度が出る訳ですが、それがもう空前絶後なのでは、という数字になります。エロ度自体も期待してはいけないレベルです。メインヒロインは2~3回。サブキャラは1回。
CGは全体を見た時に最も頑張っている要素のひとつですが、やはり時間に換算してしまうと苦しさは否めません。イベントCGは明らかに足りていないように見えました。
立ちCGとフェイスウインドウのカットは別々の作家が担当しているのか、それぞれは良い出来であるものの同じ画面で見てしまうと違和感を感じることがあります。また、豊富に変化するフェイスウインドウと違って立ちCGは基本的に彫像のように固定されたままです。この落差もまた違和感を生んでいます。
イベントCG、会話劇、ダンジョン、戦闘シーンと獅子奮迅、縦横無尽の活躍を見せているのがこもわた遙華氏のSDカット。もはや世界観の一翼と言っていいほどの存在感を備えています。特に戦闘シーンは2Dであることを自覚しながら、それでも3Dっぽく見えるよう健気に動くキャラクターたちの姿が可愛いです。必見の出来と言っても過言ではありません。
音楽はRPGにとって最も大事なことである、聞き飽きない曲作りがしっかりとできています。戦闘における曲は燃え成分もしっかりと入っていて実に聞き応えがあります。プレイ終了後も頭に残りそうなほどです。反面、しっとりと聞かせる曲はやや苦手なように感じました。
ゲーム展開に合わせて挿入されるボーカル曲は否が応にも気分を盛り上げてくれます。メインヒロインが少しずつ上手くなっていく様子が戦闘システムとも相まってしっかりと表現されていました。
ボイスはフルボイスに極めて近い作り。主人公はなぜだかSDカットの時だけボイスがあります。他はフルボイス。演技は問題ないどころか、素晴らしい役者が揃っています。中でも男女ともサブキャラのキャスティングの充実ぶりは業界でも屈指のレベルです。
まとめ。荒削りの力作。もう少し研磨して欲しいのが正直なところですが、それでも十分に遊べる作品に仕上がっています。ただ、社会人はあまりに厳しいボリュームなので安易に手を出すのは危険です。
お気に入り:御木津藍、神楽那由他、レイディアント・アムリィス、緋ノ宮黎
評点:80
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、朱島歩武
珍しく存在感のある主人公。翠下弓那を守る存在として教育されたが、実のところそれだけに留まらず世話役やツッコミ役までこなす便利な男。実際、ユミナの処置を任せておけるというのは実に安心感を与えてくれます。雲母も使い勝手の良さを感じていたことでしょう。
ボイスがあったりしますが、なかなか好かれやすい演技に仕上がっていたのではないかと思います。ツッコミの切れも申し分なし。声優にはあまり詳しくないので自信はありませんが、スキルのセリフから判断するともしかして天元突破な主人公?
赤に塗装されたネコミミなロボットのデザインが素敵です。
2、翠下弓那
彼女のひとりボケツッコミはもはや芸術の域に達しています。ネタではなくてそういう生態であるというのがポイント。人生こそがまさにそれであるという。実にツッコミのし甲斐があります。天然なのに同情してもらえないのが人徳のなさの表れ。灯の友情の一部がとても痛い。裸の王様になりはしないか、星徒会長になってからはそれだけが心配。
告白シーンは盛り上がりもあってなかなか良かったのですが、それだけに感情の積み重ねがなかったのがもったいない。意識しないはずないでしょう、とか言われてもそれが見た目に表れていないのでは「はぁ(取りあえず相槌をうつ的な)」ってな感じデスヨ。
3、黒河雲母
暗黒ロリの名を欲しいままにする部長。腹芸は得意中の得意というかむしろ基本。弓那をいたぶる様子がプレイヤーにはすこぶる楽しい。まぁ、良い相関関係を築いていますな。
肉体年齢は歩武たちと変わらずとも実質年齢は40近く。これは属性持ちにはどんな作用を及ぼしているのでしょうねぇ。
本人のシナリオはあまりにも酷いトンデモシナリオで思わず閉口。キャラも違うし、あらゆる点が不自然だし、正直なかったことにしたいデス。
4、御木津藍
天性のネタ使い。あんだけネタを披露されていながらユミナは藍のことをあまり知らないとか、さすがにちょっと信じ難い。そら、将来のこととは違うかもしれないけど、歩武がうまく聞き出したようには見えないだけにねぇ。
あまり特定のネタに頼らないのがポイント高いです。強いて言うならエロゲーとかオタク自体がネタ。笑い分はそのほとんどを藍から受け取っていました。歩武とユミナをいじることに関しては右に並ぶ者がありません。元ネタありでは「偽乳(にせちち)特選隊」が最高でした。この読み仮名は配慮なのでしょうか。
そんな藍ですから自分のシナリオでシリアスになるとそれだけで面白く読むことができました。実際、バランスなどを考えると藍シナリオが一番まとまりが良かったように思います。この世界への入門編としても向いているのではないかと。
5、本間麻衣乃
個人的にはあまり感じ入るものはないのですが(メガネだし)、逆上がりのイベントは随分とマニアックな感じがしました。彼女がフェイバリットキャラだったりすると反応もずっと異なるのでしょうか。
麻衣乃に限りませんがSDカットの方が可愛いです。個人的にはラフの麻衣乃の方が魅力的だと思います。
そういや彼女だけ射精箇所の選択肢があるのはなぜ?
6、緋ノ宮黎
RPGの育成がまずくて手間取ったということもありますが、それを差し引いてもとても思い入れの深いキャラです。声優の演技もさることながら熱さの固まりのような言動がたまりません。これでさらにシスコンであることがまた輝きを増す要因になっています。おかげで那由他を相手にテリーマン現象まで見せてくれるという憎い奴です。
本作には他にライバルっぽいキャラはいないのでその存在の貴重さが際立ちます。というか、個人的には黎だけでも宇宙編に出て欲しかったくらいです。
7、坂上月夜、陽子
本作随一のエロさ。2人なんだから素材も2人分欲しかったところ。何気に歩武は月夜の気持ちをスルーしてます。
8、神楽那由他
ザ・ツンデレ。非常にわかりやすい御方。難攻不落に見えてそうでもないあたりがポイント。落ちるのが早いのでストレスが溜まることなく、イベントのひとつひとつがとても楽しくなる。いちいち言い訳するところが基本に忠実でナイス。月夜もそうですが、こういうのを見せられると個別エンドが欲しくなるなぁ、と。
9、緋ノ宮灯
歩武のことを好きなようには見えないあたりが重要なのかねぇ。黎の存在と演技も相まって良いキャラになっています。たまに親友に毒を吐くのもポイント高し。
2回戦で論説部を応援するようになるまであれほどしっかり描写があるとは思わず驚きました。
10、朱島武人
パパりん若すぎ。そして、声優の演技に聞きほれる。マスターアジア状態にたまげる。これでよくカラレスに敗北できたなぁ。どう考えても歩武たちが勝てるとは思えないんですけど。
11、カラレス
こちらも演技にじっくりと聞き入りたくなる。本作は実に声優が豪華です。propeller作品にも引けをとりません。ただ、役回りとしては面白味に欠けます。
12、翠下弓果
雲母が年相応ではないのかと思うほどに若い。そして、サブキャラであるせいか、一色ヒカルさんの演技が弾けまくっています。短い尺でこの存在感。本人は不満があるかもしれませんが(サブが多くて)、良いキャスティングです。
13、レイディアント・アムリィス
仕舞うことのできない槍が素敵。で、何のために使っているのかよく分からないのがさらに良し。イベントCGがないせいかわかりませんがフェイスウインドウのカットに気合いが入っているように感じます。
アムリィスを見ていると天然というのはホントはこういうキャラだよねぇ、としんみりと思ったり。遠くにユミナを見据えながら。
掛け合いも楽しいだけに出番の少なさがもったいないところ。エピローグでももう少しくらいは描写が欲しい。せっかくの良キャラなのに。