千恋*万花(ゆずソフト)

 親類の老舗旅館を手伝うためにやって来た有地将臣(変更不可)。ところが、名物イベントの伝説の刀を引き抜いてしまったことで事態は一変。責任をとるはめになった将臣は命懸けで500年前の呪いと戦うことに。

 ゆずソフトの新作は田舎町を舞台にした和風テイストあふれるアドベンチャー。
 購入動機は原画買い。
 初回特典は特になし。予約キャンペーン特典は今回もはこぶいち氏描き下ろし複製色紙、ラフ原画集、ドラマCDと実に豪華。加えて早期予約キャンペーンもありました。こちらはむりりん氏描き下ろし複製色紙。ここはいつもラフ原画集にSDカットのものも収録してくれるので見応え度が違います。ましてや、SDカットはこもわた遙華氏ですから。

 修正ファイルが出ています。比較的、重要なものはありませんが、細々としたものはたくさんあるのでプレイ前にあてておきましょう。

 ジャンルはいつものおなじみアドベンチャー。
 足回りはいつも通りかゆい所に手が届く親切設計。メッセージスキップは既読未読を判別して高速です(それぞれの処理を選択して3段階から選択可能。遅いモードもあります)。次の選択肢へ機能と前の選択肢に戻る機能も標準装備されています。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能で、いつでも最初まで戻ることができます。ロード直後にも使用可能。さらにこの画面から好きなシーンへジャンプする機能が用意されています。アイコンにカーソルを合わせるだけで当該シーンの様子が画面上に表示されます。この時、通常画面左上に表示されている章もわかるようになったのでさらに使いやすくなりました。
 タイトル画面で前回の続きから始められるCONTINUEを引き続き採用。ロード画面を開かなくていいのでとても便利です。カーソルを当てるとサムネイルが見られます。
 フェイスウインドウを表示するかどうかを選択する機能は今回も搭載。好評なのか、最初からオンになりました。やはり、イベントCG表示中の効果が大きいですね。と思っていたのですが、これはあくまで立ちCGが表示されている時のみの機能なようです。イベントCGの時は必ず表示されます。つまり、好みで問題ないでしょう。
 お気に入りのボイスを登録する機能も引き続き採用されました。
 シナリオの分岐が見た目にわかりやすいフローチャートが初登場。いつでも入ることができて色々と確認可能です。カスタマイズによっては軽いネタバレにもなるので要注意。再プレイなどに大きな力を発揮しますが、事実上のイベント回想としても使うことができます。

 シナリオはこじんまりとまとめてきた印象です。穂織という独特の文化を育んできた土地を舞台にしているので、この世界観を構築するためにデザインを含めかなり力を使っています。それだけに発展性はあっても世界そのものはとても小さくまとまっています。全体の構成としても、大枠の物語が終わったところで個別シナリオに分岐する形なのでどうしても物足りなさを感じやすくなっています。例外は最後まで緊張感を持って謎の残されたレナシナリオくらい。
 一部のシナリオでは複数ライター制の影響が出ています。露骨に主人公の振舞いが異なっていて違和感を感じやすいです。
 日常の掛け合いは立場の異なるキャラを出すことで上手に変化をつけて飽きにくくなっています。ただし、笑いはほどほどでSDカットが絡まない場ではそれほど期待できないでしょう。それでも、ヒロインの魅力をしっかりと打ち出しています。
 惹かれ合う過程はそこそこ納得のいくよう描かれています。都合の良さも感じますが、主人公のデザインがそれを薄めてくれています。
 Hシーンは各ヒロイン4回でサブヒロインが3回。いつも通り1回はクリア後のアフターストーリーとなっています。サブヒロインにも用意されています。エロ度は近年の純愛系にしては普通程度。題材の割りには「穂織色」は弱いです。あと隠れテーマなのかはわかりませんが、なぜかお風呂関連が多くなっています。

 CG。本作から画像解像度にフルHD(1920×1080)が採用されました。さらに美しくなったCGを堪能できます。こぶいち、むりりんの両原画家に加えてサブヒロインに第3の原画家、煎路氏が加わりました。
 相も変わらず可愛さとエロさの両立は見事のひとこと。ただ、レナ・リヒテナウアーだけは少し安定感を欠いているようで残念でした。
 立ちCGはキャラクターの心情を繊細に描きだしています。あまり大げさなリアクションはなく雰囲気を大事にしているのを感じました。掛け合いには言うまでもなく多大な貢献をしています。
 SDカットは笑いとヒロインの魅力増に大きな力を発揮しています。贅沢すぎるくらいの差分に動きやSEまで加わることで存在感がさらに増しました。今回もアイキャッチのものがCG鑑賞に登録されないのはとても残念。

 音楽は和風を意識した作曲に三味線の演奏が非常に高い効果を上げています。主題歌だけでなく、要所で使っていることでうまく世界観にはまっていると感じます。サントラが特典でないのが惜しまれます。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技はいつも以上にキャラのイメージに合致していると感じました。中でも常陸茉子役の小鳥居夕花さんの独特の喋りはクセになるような魅力がありました。

 まとめ。バランスの難しさを考えさせる作品。萌えを忘れずシナリオを高めるのは難しいのだな、と改めて感じます。なによりボリューム配分は大きな枷となっていそうです。今回は共通シナリオに山場を持ってくることでなんとか成立したようにも見えます。
 お気に入り:朝武芳乃、常陸茉子
 評点:70

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、朝武芳乃
 勝手に真打ちだと思っていたのでちょっと拍子抜けでした。そういやパッケージの中央に陣取ってもいないですよね……。巫女さんのフェチ的な要素ってのは思った以上になかったです。もうちょいこだわりみたいなものがあるかと想像していたのでそこも残念というか、もったいなく感じました。舞の奉納以外に特に何もしていないしねぇ。
 SDカットを含めてゴロゴロと身悶えする姿がとてもとても可愛いです。ちょっとした動きやSEまで付いているのも地味ながら見逃せないポイント。個人的には本作の中で群を抜いています。自爆する様子が最も似合うヒロインでした。
 しかし、休日の前を選んでHしようというのはどう考えても学生の発想ではないですねぇ。社会人的なソレですよ。

2、常陸茉子
 主人公が来るまで人形っぽくはないけど人形のようだった、というのがいささか苦しい感じがします。あんましbefore→afterの形がうまくいっていないので違和感がありました。家ですっげー気を抜いている姿とか見るとなんか深刻には見えないですよねぇ。人をからかう姿なんかも同じことが言えます。せっかくキャラそのものは好きだったので少し残念でした。
 芳乃と同じでなんちゃって伝奇っぽい作品なので忍者要素はほぼあってないようなものなんですよねぇ。大概がギャグ向けに用意されている感じだものねぇ。そもそも、いつ修練しているのやら。
 隣でひたすらオナニーするところはあまりに芳乃が不憫でした。そりゃムラサメちゃんに泣きつきもするわ。毎晩のようにやってばれないはずないでしょうに。

3、ムラサメ
 正直500年の重みがなんか軽いです。ゆずソフトだからと言えばそれまでですけど、もうちょい掘り下げてほしかったように思います。なんかじいちゃんをいじるシーンがやけに多かったですし。そのために復活も同じようにあっさり気味ですからねー。

4、レナ・リヒテナウアー
 予想外に重要な娘さんでした。物語的に脇役だと思ったから最初に選んだのになぁ。後の祭りですが最後か、そのひとつ前くらいにすれば良かったです。
 リアクションがいちいち楽しい娘さんですが、原画的にもうひとつ安定感に欠けたのが悲しかったです。ついでに一番のプロポーションの割りにはエロス的にも弱かったように思います。