サクラノモリ†ドリーマーズ(MOONSTONE)
吹上慎司(変更不可)は幼い頃に飛行機事故で両親を失った。その惨事の数瞬前に奇怪な姿の化け物を目撃していた。そんなものを見たのは初めてだったが、事故から生還した後もたびたび姿を目にするようになる。
叔母夫婦に引き取られた慎司の心の支えは隣家に住む幼なじみの秋津まどかであった。2人は成長と共に惹かれ合うようになり、やがて結ばれた。ところが、幸せの最中に再び悲劇が襲いかかり、まどかは帰らぬ人となってしまう。犯人は街に潜む殺人鬼「ジョーカー」。警察の捜査は数年経っても一向に進展せず、このままでは迷宮入りではないかと思われた。
ところが、意外なところから糸口が見つかる。殺人鬼と化け物の間には関係があるらしい。そして、化け物が見えるのは慎司だけではなかった。仲間を得て彼は敵討ちを決意する。ただし、戦場は現実にはない。夢の中にこそあった。
「ジョーカー」の正体は。慎司の行き着く先は果たして……。
MOONSTONEの新作はシリアス要素の強いサスペンスミステリー。
購入動機は一応ブランド買いになります。
初回特典は特になし。予約キャンペーン特典は録り下ろしオリジナルドラマCD。
ジャンルは特に変わったところのないアドベンチャー。
足回りはほとんど同じですが、あるポイントが改善されました。メッセージスキップは既読未読を判別して高速です。しかし、選択肢間が長いため相対的に遅く感じます。また、既読箇所であっても一部の決まった場所がスキップされません。良い場面だというのはわかりますが、強制なのはちょっとどうかと。他にもなぜかストップする場所があります。
バックログはいつも通り別画面とウインドウの2種類が用意されています。ホイールマウスに対応(後者が起動)、ボイスのリピート再生も可能ですがほとんど戻ることができません。ブロック単位の管理のせいか、戻れる量は一定しておらず、そのせいでロード直後にもほぼ使用不可となります。
恒例だった時間差起動ディスクはどうやら廃止されたようです。少なくとも、2週間以上かけてクリアしましたが一度も要求されませんでした。とても良いことです。これで恐れながらいつも近くにパッケージを置いておく必要がなくなります。まぁ、本作はないと思わなかったのでずっと近くに置いておきましたが。
CONTINUE機能も引き続き採用。本作からはクイックセーブにも反応してくれるようになりました。
シナリオは章構成になっています。全十一章で最終章が個別シナリオです。主人公以外の視点が非常に多く、頻繁に切り替わります。
あらすじからもわかるようにシリアスなストーリーなので緊張感を伴う展開が基本となります。当然、笑いの要素はほとんど期待できません。序盤から中盤にかけては章仕立ての長所をうまく使って小気味よく物語が進んでいきます。各章の事件を解決していきながら真相に迫る流れはなかなか盛り上がります。
ところが、中盤以降はやや様子が変わってきます。それまで奏功していたサクラノモリ・ドリーマーズがまるで役に立たなくなり、自然ヒロインたちも存在感をなくしていってしまいます。再びヒロインたちにスポットライトが当たるのは「ジョーカー」の事件が解決した後。実際に第一部と二部に分かれているようです。
物語が完全に分離した形になってしまっているのでどうにも終わった感を感じやすくなっています。最も重要な目的を果たしてしまった後なので当然ながら盛り上がるということがなかなかありません。ヒロインの個性という意味でもわずか一章では秋津まどかの魅力を上回るのは難しく厳しいことになっています。当然のように他のヒロインは出なくなります。
惹かれ合う過程はとても弱いです。ヒロイン4人中3人は夏休みが暇なので彼氏が欲しい、という動機で募集していて身近なのが主人公だから、という流れなのでまともなものを期待するのは難しい状況です。
Hシーンはカウントがしにくいものがありますが各ヒロイン4回程度。エロ度は普通レベル。連戦がわりとありますが、基本CGが据え置きなのであまりエロさの向上には繋がっていません。
CGは前作から塗りが開眼したように素晴らしくなり、それは今回も継続しています。パッと見の印象がとても華やかになりました。本作はシリアスなところが売りでもあるので明度の強弱がはっきりしていて記憶に残りやすい画面作りができています。逆に言うと衝撃的なCGもそれなりにあるので苦手な方は少し注意が必要です。。
立ちCGもイベントCGに負けない存在感のあるカットが用意されているので掛け合いを盛り上げてくれます。
音楽はいわゆる非日常の曲がとても充実していて聞き応えがあります。緊迫感の醸成に多大な貢献をしてくれています。また、日常の曲との落差が大きなギャップとなり、より高い効果を上げています。サウンドトラックが同時に発売されるのも納得のクオリティです。
ボイスは主人公の他、名前のないキャラには用意されていません。演技の方は特に問題なく、脇役の方もしっかりした芝居を聞かせてくれます。
まとめ。タイトル否定っぽい作品。中盤くらいまでは良い感じなのですが、それ以降はまるで違うタイトルであるかのように変容していきます。大胆すぎる構成があまりうまくいっていないように見えます。終盤は完全にサクラノモリ・ドリーマーズは活動しない、むしろ活動しない方がいい、という結論になってました。やはり、まどかの存在が大きすぎたと思います。
お気に入り:秋津まどか
評点:65
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、桐遠暮羽
夏休みは暇で暇で「しりとり」とかしてしまうので、その解消に彼氏を作ろうの会の筆頭。なので告白とその答えは最も取ってつけた感がありました。目につく男子が他にいないだけで正直、誰でも良さそうですよね、初音以外は。サクラノモリ・ドリーマーズの集まりの外聞がよろしくないのは当たり前でメンバーはみんな無頓着すぎ。座椅子に座って夜を過ごす、なんて聞いたら余計にこじれること必至。もうちょっと色々と慎重に言葉と行動を選ぶべきでしょう。
信じがたいことに18歳まで海で泳いだことのない女。ほど近い距離に海があるのにこれは珍しい。雪国生まれだけどスキーがうまくない、はわりといるでしょうが、全くやったことがない、はなかなかいないでしょう。
解決編のヒロインとして役者不足。姉がジョーカーと付き合っていたとか、じいさんが要となる話を披露していたとか、あまりにも弱すぎる。芹那さんの件は暮羽の弱さを補うためではないか、と勘繰るくらいに強引で唐突ですしね。恋人が本当は死んでいなくて、その相手が実は秀さんとか。どこで出会ってどう声をかけたんだか。しかも、偶然?
2、衿坂美冬
気の毒だけどあんまり物語に必要ではないヒト。せいぜいが廃屋のイベントくらいですが、あれは暮羽か初音あたりの方がしっくりくる役回りでしょう。というか、本作のヒロインはまどかを除けば2人で十分だと思います。暮羽と真幌さんと初音を足して2で割った感じで。その証拠って訳ではないですが、美冬は要所要所で必要もないのに暮羽の家にやって来ては暮羽本人に突っ込まれています。共通シナリオ内でも美冬が活躍するところはほとんどなかったですしね。野球で言うなら3人目の捕手くらいの扱い。
3、閑宮真幌
「結構」が口グセの先輩。かなり頻繁に使うのでよほどクセになっているご様子。それでも、直らないのだから案外、気に入っているのかもしれません。例)結構好き
夢の世界へ誘う能力の持ち主。けれど、実際のところそれほど必要でもありません。対象がどこにいるのか普通にわからなかったりしますし、そもそも案内が必要ないことがほとんど。重要な深層のことは全くわからない。しかも、後半になるとサクラノモリ・ドリーマーズの活動自体が茶番同然の扱いになってしまうので。困った時に起こしたりできない、というのも役割としてもうひとつ。塔野沢の時はむしろ、この能力のためにピンチでした。
4、吹上初音
妹ポジションだけど従妹なのでそれっぽさはありません。過去作と比べてもやはり力が入っていないのが窺えます。
後から付けたような能力だけあって、使われる機会はほとんどなし。サクラノモリ・ドリーマーズのお味噌ポジション。いるだけ。
結局、塔野沢はどうして夢を見ながらジェイソンのように動けたんでしょうねぇ。本作一番の謎ですわ。
5、秋津まどか
エンドはないけど最強のヒロイン。そもそも、ロードバイクを趣味にしている、というだけで他の4人を大きく引き離しています。しかも、主人公も一緒になって楽しんでいるのだから付け入る隙はありません。おまけに幼なじみで窓を開ければいつでも会話可能な距離にいる。もう完璧です。
あの出来事が起こる前には引っ越しイベントによる遠距離恋愛フラグまで装備する恐ろしさ。実現していれば、もちろんここでもロードバイクが様々な形で役に立ったであろうことは想像に難くありません。
トドメとばかりにジョーカーに殺された後は衝撃的な選択肢の演出とイベントCGを経て幽霊となって大復活。壊れそうな主人公を支えてくれます。幽霊なので容疑者の捜査にもしっかりと力を発揮します。
もうどう考えたって他のヒロインに勝ち目などありません。まどかに比べたらサブヒロイン以下。サブキャラと言っても過言ではありません。
それだけにシナリオがないのは痛恨ですね。もし、他のヒロインにもっと存在感を出すなら事件が解決する前にくっつけないと駄目でしょう。主人公がまどかとの間で揺れるくらいでないと。主人公がやたらと独断専行好きでジョーカーとの結着にヒロインがまるで役に立たないのも一因でしょう。