モエかん(ケロQ)
かつてはナーサリークライムの一人として数えられ、世界を動かす力を持つとまで言われた男、神崎貴広(変更不可)。だが、今は最果ての島に左遷され落ちこぼれメイドを教育する日々を送っていた。閑職にもそれなりに満足していたある日、かつての同僚二人が世界最古のぽんこつアンドロイドを連れてきた。それをメイドとして教育しろという命令を持って。そこにはどのような思惑があるのか。
ケロQ第4弾。デビュー以降、一風変わった作品を作り続けてきたブランドが突如として、発表したメジャー路線を思わせるタイトル。正直このタイトルは気が狂ったかと思うに充分でした。それでもまぁ、間口が広がったのだと強引に解釈して買う気に。
初回特典は同人誌。通常特典も同人誌。中身は違うとのことですが、初回版だけを見る限り通常版に対してそれほど優越性は感じられないのではないかと。100パー推測ですけど。ちなみに「初回版(すごい!!)」とパッケージの背表紙に書いてありますが、どのへんがそうのかは不明。
細かいところで幾つかの不具合が出ているようです。それほど重大でも重要でもないようですが、メーカーが推奨してますので素直に落としておきましょう。私の環境ではフリーズすることがありましたが、発生したのは一度だけなのでそれほど問題はないかと。ただ、個人的には選択肢の出なくなった後半でも定期的なセーブをお薦めします。
システムはエロゲ界に星の数ほどもあるアドベンチャースタイル。特別な要素はなし。
足回りは配慮に欠けている、と言わざるを得ません。そもそも快適なプレイ環境を構築する意志があったのかどうかすら疑問に思います。というのもメッセージシステムに大いなる難があるからです。
今作ではキャラクターのセリフはメッセージウインドウで、モノローグ及び地の文はノベルゲーム形式でCGに重ねるというスタイルを採用しています。これは時折、他作品でも見られますが、困ったことにこのスタイルによる弊害を全く考慮していないのです。
セリフからモノローグに移る場合、どういう訳か、わざわざ画面を暗くしてこれを行います。戻る場合は画面を明るくして。問題なのは立ちCGの表示や変更も含めて、この一連の動作が非常に低速で行われていること。テンポを悪くすること甚だしいです。プレイ時間もどれだけ無駄に長くなっているかわかりません。
メッセージスキップにおいても害は及んでおり、メッセージ表示以外の各処理が全く高速にならないのでたいへん遅いです。上で定期的なセーブを薦めた理由はここにあります。2周目以降は暇つぶしの道具を用意した方が無難かと。また、選択肢後にスキップが継続されないことも遅さに拍車を掛けています。
メッセージの巻き戻しは別画面で実行。ボイスの再生は出来ません。容量も少ないんで、まとまった分量を読み返すことには向いていないように思います。
シナリオは相当に覚悟して望まねばならないほど大味。萌えっ娘カンパニーという荒唐無稽な設定を用意したせいか、そこに緻密さはまるでなく、時間軸及び辻褄合わせが全く合っていません。それはかなり徹底していて、(良くも悪くも)最初からやる気がないのではないかとすら思わせます。ついでに書き添えれば、この設定でギャグが皆無という事実にかなり驚かされました。
各ヒロインの個別シナリオに入るまでの共通シナリオ。これが非日常的な架空世界とは思えないほど退屈。現代を舞台にしている訳でもないのにこれほど興味を引かれないどころか、逆に睡魔に襲われるシナリオは稀少。テキストもセリフと地の文で同じ内容を繰り返したり、同一文章内で同じ表現を使ったり、時には前後の文脈が噛み合わなかったりと明らかにセンスと修行が不足しています。
シーンの切り換えも唐突で間のとり方の悪い(あるいは考えていない)ケースが多く見られます。
エロゲー的に見た場合は大きな疑問も。メインヒロインの二人のトゥルーエンドルートにおいてHシーンがありません。ならばどこにあるかと言えばバッドエンドルートの調教シーンのみ。全くないのならばある意味で納得もいくのですが、これでは取ってつけたような印象が強くなるばかりです。また、調教シーンの主人公がどう見ても別人格と言うあたりにも何か嫌な見切りを感じます。シナリオ的にも本筋に繋がらないですし。
CGはこれが売りと言ってもいいくらいの良い出来。3人の原画家もうまくひとつの世界に馴染んでいます。ただ、効果を考えてのこととはいえ、一部のラフカットのようなCGの中にはどうかと思うものも。まさに玉石混淆を思わせます。
立ちCGは表情、ポーズとも多彩に変化してくれます。変化し過ぎてたまに同じスケールに見えないのはご愛嬌。
背景はわざわざ別ブランドから助っ人を頼んだくらいなので非常に綺麗な仕上がり。しかし、シナリオの出来と比べると背景の方が勝ってしまっている印象もあります。
あまりにも問題なのはCG鑑賞モード。今時、まともなサムネイル画面がないというのはどうかと思います。部分違い含めて300枚以上のCGを右か左かを選択して1枚1枚閲覧していくのはイジメだと思います。全て見るのに枚数以上のクリックが必要という事実をスタッフはどう思っているのでしょう。
音楽は全体的になかなかレベルが高いと思います。プレイ中は確実にゲームを盛り上げてくれるかと。ただ、どういう訳かプレイし終わってしまうと印象がすっぽり抜け落ちてしまいます。あくまで個人的にはですが。音楽鑑賞がないのは商売の匂いがしてマイナス。というか本当に商売でした。
ボイスはヒロインのみフルボイス。作品としては存在感ある男性キャラにもボイスが欲しいところ。ただ、これ以上プレイに時間がかかっては問題なのでやはりない方がいいのかも。テンポを重視するならいっそボイスなしでも良かったと思います。
ヒロインの演技は全体的に安定。安心して聞いていられます。
まとめ。作品自体がネタ? 何かそう思わずにはいられない作品でした。壮大な空騒ぎという気がしないでもありません。私にはわかりませんが、やはりケロQはケロQということなんでしょうか。細かいことが全く気にならない、あらゆる理不尽さを笑い飛ばすことが出来る方ならオススメ。
お気に入り:あえて挙げれば朝霧かずさ
評点:50
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、リニア
AIの追求であるのに人間としての能力を備え過ぎのように思います。痛覚がある(骨が折れる)、呼吸する必要がある、人間と同じ食物からエネルギーを得る、涙の後が残る、寝る(夢を見る)、金属疲労ではなく疲れる体、トイレに行く、などなど。ここまでするならいっそ子供を作る機能も盛り込めばいいのに。つーか、ここまで技術が発達しているなら機械の体の不老不死は実現できそうな気も。
リニアハンドが装備されている意味が特に何もないというのはちと寂しいのではないかと。
2、実相寺冬葉
マーブルファンタズム(プレゼント能力)にもげた手足をゼロから再生する能力。この二つだけでN Girlの資格は充分だと思うのですが。
そーいや、「太陽とクリスマス」の続きはないんですかね。アフターストーリーにはそーいうのをまず書くべきではないのでしょうか。
3、霧島香織
オールウェイズ赤子プレイというだけでゲンナリするには充分なんですが、シナリオが輪をかけてキツイ内容。なんだそりゃ、という展開&事実の連続にくらくらしっぱなし。エンディングもどうかと終わり方だし。アフターストーリーでちったぁフォローするのかと思いきや全然関係ないし。なんだかなぁ。
4、鈴希
リニアとキャラというか特徴が被ってます。しかもそれがさして意味がないところまでおんなじ。思いつきをそのまま実行している感じだよなぁ。
回想シーンで鍵を奪うシーンがなにかおかしくないですか。相手を血まみれにまでしたのに鍵だけは得られないってのはどういうことなのか。ま、ここのシーンだけの話じゃないですけど。
ラストもなんだか意味不明風味。不幸に至っている理由がイマイチよくわからないために正直、反応できません。いや、なにをしたいかはわかるんですけど、設定があまりにも適当だから。
5、朝霧かずさ
彼女がこの名前を名乗った理由はなんなのか。恐らくはそこに全く意味がないというだけで脱力モノです。どういう細工をしたのかはわかりませんけど、厳密には同じ名前ではないんだからいっそ完全な偽名の方が良かったんじゃないかと。また、名を騙った相手がたまたま暗殺者ってのも都合がよすぎると思います。だってこの一連の流れに必然性は全くないんですから。でも一番、驚きなのは何をしに来たのかわからない相手の素性を全く調べない主人公ですよね。せめて調べてから悩んでください。