恋と選挙とチョコレート(sprite)
高藤学園に今年も会長選挙の時期がやって来た。いつもならたいして興味のないイベントだが今年は意味合いが違う。大島裕樹(変更不可)の所属する食品研究部が有力候補者のマニフェストで廃部候補になってしまったのだ。確実にこれを止めさせるには対立候補を出馬させて当選させるしかない。果たしてこの目論見はうまくいくのか。
spriteのデビュー作は選挙をテーマのひとつに扱った珍しいアドベンチャー。
購入動機は美しい原画とCGの塗りに惹かれて。
初回特典は原画集。予約キャンペーン特典は恋チョコ×I’veマキシシングル。
ジャンルは特に変わったところのないアドベンチャー。
足回りはデビュー作らしい不器用さが見受けられます。メッセージスキップはほぼ既読未読を判別して高速ですがなぜかアイキャッチはあまり早く処理してくれません。シナリオ中に自動的にオートモードとなるところでは既読状態でもスキップが停止してしまいます。スタッフロールも同様です。
バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがほとんど戻ることはできません。
タイトル画面からクイックロードができないのはいささか不便です。
音楽鑑賞モードではボーカル曲が収録されていないだけでなく、残りの曲も曲名さえ表示されません。さすがにちょっとモードの態を成していないのではないでしょうか。
誠に残念ながら本作は初回キーコード入力の上、要起動ディスクという仕様です。
シナリオ。1周目は完全に固定ルートです。選択肢は幾つか出現しますが関係ありません。住吉千里のルートに入ります。これが色々と本作の印象に影響を与えていそう。というのも住吉千里というヒロインは他シナリオでも様々な形で出張ってくるからです。主に好感度を下げる形で。上述した強制オートモードもずばり千里がらみで当該ヒロインシナリオとはそれほど関係なかったりします。演出としてボーカル曲もかかるだけにどこか浮いた感さえあるほど。言うなれば仕様として千里中心主義を掲げているかのような。
選挙戦描写は比較的わかりやすく、それでいてそこそこの説得力を維持して描写されています。架空の巨大な学園ということもあってかツッコミどころも多いですが、理解もできないというほどではありません。珍しい題材としては十分に機能していると思います。一方でシナリオ毎に密度には差があります。ほとんど選挙戦が描かれないものも中には存在します。もしかしたら、このあたりも1周目のルートを固定した要因かもしれません。
日常の掛け合いは当然のことながら選挙がらみが基本となりますので純粋な意味での日常会話は薄いです。それを踏まえた上ではヒロインの魅力を打ち出した上で賑やかな掛け合いが実現できています。
惹かれあう過程もヒロインによって大きな差があります。昔から好きから丹念に描写されたものまでその違いにちょっと戸惑うくらい。
Hシーンは各ヒロイン3回ずつ。ただし、CG素材のせいもあってか、体感的には2.5回というところ。エロ度は何と言うかすごく普通な感じ。中にはちょっと趣味に走ったようなものもありますが。尺は短めが基本です。
CGは本作の売りと呼んで差し支えないところですが、安定度にやや欠ける嫌いがあります。人物の正面カットの表情など綺麗で味のあるカットながら同一人物に見えにくいものも散見されました。背景との融合が素晴らしく1枚1枚はとても見応えがありました。ただ、それだけに差分抜きで86枚という枚数は寂しく感じます。
立ちCGはイベントCGに比べると塗りも含めて一段、落ちる感じです。けして悪くはありませんがイベントCGの仕上げがいいだけに差を感じやすいです。
背景は箱庭世界を上手に表現しています。モブキャラがちょっと前に出過ぎなくらいですが、丁寧に書かれていて学園の雰囲気が伝わってくるようです。時間帯によってバリエーションがあるあたりも気配りを感じます。
HシーンはCGから想像できる通り(?)あまりエロくありません。可愛いとか微笑ましいとか表現したくなる感じです。
音楽は力を入れているようで場面に合った曲がしっかりと用意されています。基本に忠実な旋律という感じで安心して聞くことができます。オープニングの他に各ヒロインエンド、挿入歌にグランドエンドと8曲もボーカル曲があるあたり力の入れようが窺えます。
ボイスは主人公を除いてフルボイス。各キャラのイメージに合致することを優先して選んだかのようなキャスティングで違和感はほとんど感じられません。ただ、Hシーンはちょっと疑問符がつく方がいらっしゃいます。ここは逆にあまり力を入れていないのかな、という感じ。
まとめ。優等生的なデビュー作。わりと無難な形で完成したように見えます。作品本体よりも仕様の方にこだわりが強く出ているようにも。基本的な実力はあるので普通に次回作も期待したいです。
お気に入り:青海衣更、東雲皐月
評点:75
以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。
1、住吉千里
んー。基本造型は悪くないんですけどねぇ。別にスタッフ萌えでもライター一押しでも構わないんですけど、それがシステム的なところまで絡んで押しつけがましいのはちょっと。よっぽどの良質シナリオと不快感の少ないキャラでないと1周目のルート固定はマイナス方向に働く可能性が高いです。2周目以降に衣更シナリオなどで敢然と立ちはだかるのもどうかと思います。その邪魔の仕方がまた無駄に好感度を下げています。最初から千里一択の人でないとフォローするのも楽ではないと思います。どこか不幸に酔っているように見えるのも厳しいところです。
付き合い始める過程も疑問。まるで呪いか脅迫のような交際にしか見えず、主人公もずっといい加減で悩んでいるのが馬鹿らしいほど。
やはり、典型的な幼なじみポジションにツインテールのツンデレさんが収まっているということ事態が問題だったように思います。もはや1人2役の世界と言っていいほど多くを求められてしまいます。しかも、どう頑張っても帯に短したすきに長し、になると思われます。大原則から異なるキャラが基本ポジションを務めるのはハードルが高すぎるのではないかと。
2、木場美冬
こちらも単体ならけして悪いキャラではないんですけどねぇ。千里とコンビを組んだことで悪目立ちしている印象です。主人公の千里以外へのフラグを潰さんとばかりに思考誘導、いえ矯正をかけてきます。中でも衣更シナリオではもはや妨害と呼ぶしかないほど介入してきます。さすがにやりすぎです。あまりに図々しい物言いに呆れてしまうほど。こちらも無駄に損しているように感じてしまいます。
本人のシナリオでは逆に修羅場がだいぶ温くて肩透かし気味。しかも、その状態はあっさりクリアされてしまうという。
イベントCGは全メンツの中でもちょっと乱れがあったように思います。1枚1枚は悪くないんですけど、あまり同じ人物に見えにくいような。
3、青海衣更
実に気持ちのいいキャラ。初見はそうでもなかったんですが、そこからどんどんと輝きを放ち始めます。まぁ、どうも千里の対抗馬にしようという目論見が見えるので当然かもしれません。ただ、個人の好悪はともかく衣更は千里や美冬と違って他人の恋路を邪魔してこないので必然的に印象はよくなりやすいです。
ケートク生という問題と選挙、それに衣更の境遇がうまく結びついて良質のシナリオになっています。惹かれ合う過程も自然で納得しやすいです。追い詰められることで互いに弱音を吐きあえるという関係性がいいですなー。会長の脅しと効果も妥当なだけに重みがあったと思います。まぁ、イジメに関してはあくまでもケートク生ゆえのイジメのみといった感じですけど、何もしないよりはよほどいいでしょう。
デートの初々しい姿がとても可愛いです。お風呂でリボンを外してくれるところも嬉しかったです。
4、東雲皐月
敵陣営のライバルキャラということもあってシナリオの趣が異なりますが、さすがに180度違うところまではいきません。あくまでも延長線上です。ただ、それでもいつもと違う選挙戦=皐月の魅力といった作りになっているのは良い感じです。洋菓子好きの姿は実に愛らしいです。デートも一度しかないのがもったいないほど楽しかったですよ。
エンディングで大島ロールに反応しなくなったのんちゃんを見た時、なんだか皐月に寝取られたような気がしましたよ。地味にとてもショックでありました。
5、森下未散
なんというか想像の斜め上を行くシナリオでした。論理がまともに通用しねぇ。主人公が打ち消したショッケンをスパイするはずがないという確信。それを突き崩した理由には腰を抜かすかと思いましたよ。そのために全部の設定を用意したんじゃないでしょうね!? しかし、結局のところちぃとも裏切っていないので意味が薄いです。好きな人には安心でしょうけど。
どうも子供を相手にしているというのがシナリオを通しての感覚でしたねー。加えて何の理由もなく主人公がぐいぐい惹かれていくので戸惑ったほどでした。これに比べたら衣更シナリオなんて好きになるまで長すぎるくらいだよね。未散シナリオなら3回くらい好きになってるよ。