君が望む永遠(アージュ)

 主人公、鳴海孝之(変更不可)は白陵付属柊学園3年生。親友慎二、水月と馬鹿をやれることに満足していた。しかし、ある日から水月がおとなしい親友、遥を連れてくるようになった。
 三人のバランスが崩れることに不安を感じる孝之。遥の引っ込み思案な態度に苛立ちさえ感じていたが、唐突に彼女から告白される。答えを持たない孝之だったが、遥を傷つけたくない一心で付き合うことにするのだった。

 新生アージュ。その言葉を体現せんがために一年の期間をかけて作られた作品です。ある日、不意に気になってホームページを覗くとそこには各キャラのアナザーストーリーが載っていました。それだけで購入をすでに決意したのですが、第1章がまるごと入った体験版をプレイしてさらにヒートアップ。この夏の最大の期待作に変わりました。

 システムはオーソドックスなアドベンチャー。特に目新しい点はありません。そのかわり、演出面はきら星のように光っています。
 雨ひとつとっても、強弱や地面への当たり方、空間の限定や角度など多岐に、そして効果的に用意されています。
 走ったときや倒れたときなど、その画面効果にはスタッフの気合をまざまざと感じました。
 他にもセリフを挟むことなく、状況に応じてキャラクターが表情を多彩に変化させるなど、これまでのゲームよりも臨場感が増しています。
 プレイ時間はかなり長め。シナリオによってばらつきはありますが、8~10時間くらいでしょうか。
 足回りはかなりいい感じです。至れり尽くせりのコンフィグ内容でプレイに集中する環境づくりがなされています。メッセージスキップはもちろんのこと、巻き戻しにおいてボイスを再生出来るのが非常にありがたいです。
 ただし、素晴らしいシステムにも諸手を挙げられない理由があります。メッセージやCGなど「認識」の部分が微妙に不安定なんですよね。すでに通過した箇所のメッセージが早送りされなかったり、CGが登録されないことがありました。他にもゲームが止まるといったケースも。もう少し精度が上がれば文句はないのですが。

 シナリオは非常に巧み。日常会話のセンスの良さは特筆に値します。
 しかし、3人のシナリオライターで分業しているせいか、シナリオごとに雰囲気がずいぶんと違います。一面的にはそれも演出なのですが、トータルとして見ると賛否両論な要素が多過ぎてバランスが悪いように思えます。
 ボリュームが大きいためか、要所要所で誤字脱字が見受けられるのが残念。特に感動的なシーンでやられるとかなり萎えます。もう少し校正に力を割いて欲しかったですね。「作品世界への没入を誘う演出」を謳うのであれば。
 ヒロイン描写には非凡なものがあるのですが、肝心の主人公はどうにも今一つ。
 展開的に仕方のない点もあるとはいえ、考え方が非常に後ろ向き。それでいて重度の優柔不断。自らをヘタレと呼ぶ駄目っぷり。
 どう見ても魅力的とは言えないんですよね。今作はヒロインの多くが主人公にデフォルトで好意を寄せているので、非常に不自然に感じてしまいます。
 ゲーム中、主人公の愚痴や堂々巡り、あるいは逃避の思考にプレイヤーは閉口してしまうことでしょう。これが最低限になればゲームのボリュームは三分の二くらいになってスッキリすると思うのですが。
 選択肢にも大きな疑問あり。二択が中心な上に選んだ通りに主人公が動かないケースがほとんど(つまりは一本道)。ひどいときには裏切るような行動に出ることも。もう少し考えて欲しかったですね。

 CGは印象的でレベルの高いものが多いのですが、どうもそれが安定していないように思います。第1章は総じて良い仕上がりなのですが、第2章はキャラによって差が激しいです。中にはまるで同じキャラに見えないものもチラホラと見られます。
 立ちCGはポーズ変化という意味では地味。キャラの動作よりも表情の方に重点が置かれているのでそういう印象を受けるのだと思います。

 音楽は心を震わす名曲が揃っています。ただし、キャラクターごとのテーマ曲がないのでどうもあまり曲数がない感じを受けてしまいます。
 ボーカル曲はオープニングとエンディングに2曲用意されています。ゲーム内容に則したメッセージ性の強い良い曲です。
 ボイスは主人公を除いた全ての登場人物に用意されています。男性陣にもしっかりとあるのは嬉しいです。
 女性陣は総じてレベルが高いですが、中でもメインである涼宮姉妹と大空寺あゆの演技は最高峰。文句ない素晴らしい演技でキャラに魂が宿っています。

 まとめ。完璧とは言えないが、事前の期待度に応える良作。新生アージュの力を示したのではないでしょうか。ただし、課題が多いのも事実。トータルバランスが良いとはとても言えませんし、もう少しキャラクターを大事にする必要も感じます。一旦、作り上げればどう扱ってもよいというものでもないでしょうし。
 お気に入り:涼宮遥(他に比べようもなく)
 評点:66

 以下はキャラ別感想。ネタバレにつき取扱注意。







1、涼宮遥
 第1章の可愛らしさは群を抜いてます。まさに魂を抜かれる魅力を持ったヒロインです。それだけに展開は痛過ぎますが。
 遥伝説最高! このゲーム最大の魅力といっても過言ではない遥のボケっぷり。素敵過ぎます。主人公も言っていますが、こんな娘が彼女で文句があるはずありません。
 第2章はもっともっと幸せになって欲しかった。それだけの目に遭ってきたのだから。
 水月シナリオは涙なくして見られません。深夜に己の運命に泣き叫ぶ姿はあまりにも胸に痛いです。全体的に、遥にこんなことを言わせるなんて、と強く思わせるシーンが多かったように思います。

2、速瀬水月
 色々としんどいキャラです。第2章において繰り返される聞きたくない言葉の応酬。どうして付き合っているのかが非常に疑問に思えてしまいます。
 そもそも主人公が水月に逃げた理由というか、そのときの描写がされていないので全く情が移らないんですよ。プレイヤー主観からすれば遥を裏切る理由が見えないんですから。
 イルカのカップを買う回想シーンなど、どうしてあそこまで楽しそうなのかかなり疑問。後ろめたさなどまるでなく、思い詰めた様子も全くない。ちょっとなぁ。
 たとえそれが欺瞞であっても二人を応援しようと気丈に笑う遥。それに対して水月がしたことはあまりにひどい。
 隠しておきたい心情を剥き出しにさせ、病人を殴り飛ばしてベッドから落とす。助けることすらせずに捨て台詞を残して逃げる。それがヒロインのすることですか? このことを茜が知ったらあのエンディングは絶対になかったでしょう。なにしろ、このあと会わないんだから。一生、許すとは思えません。
 個人的にはどう考えても愛想が尽きるでしょう。遥が強がっているのは明らかですし。
 しかも、学校の木に行くのは演出としてどうかと。名実共に遥を消そうとしているようにしか思えませんよ。
 マヤウルを自らに例えてまで別れを当然のことにしようとする遥。一体どちらがヒロインだかわかりません。エンディングの絵本では嫌な感じが胸にしこりとなって残っているようでした。正直、この二人に遠くから遥に想われる資格があるとは思えませんでした。

3、穂村愛美
 あまりいないとは思いますが、最初のプレイでこの方のシナリオに突入したら、2度目のプレイ意欲が失われるのではないでしょうか。
 個人的には違う意味で最高です。黒い笑いを充分に堪能しましたが、メガネ好きな人にはたまらないシナリオ。やっぱりちょっとやり過ぎではないかねぇ。
 遊園地の鬼気せまる演技はインパクトあり過ぎ。
 前からそう思っていましたが、このシナリオをプレイして改めて慎二と水月が嫌いになりました。所詮、こいつらの正体はこんなもんだよ(まぁ、主人公もあまり言えませんが)。

4、涼宮茜
 メイン以外では唯一、遥、水月との関係から逃げていないシナリオ。それでも奇妙さは拭いきれない。どう見ても主人公が水月よりも遥よりも茜を選ぶ理由が見えないからだ。
 気持ちを自覚していない主人公が執拗に茜に近づくさまはどう見ても不自然。こういった展開で情が移るならどう考えても病人の方ではないのかねぇ?
 エンディングの遥はまるで聖母のようデスヨ。
 妊娠ルートはさらに異常。同じ日に姉妹を食っちまうのもどうかと思います(しかも、その事実を長らく忘れている……)。
 妊娠の事実を聞かされた主人公がなにを考えていたのかもよくわからない。てっきり遥をとるか、子供をとるかを選ばなければいけないのかと思ったのだけれど。主人公は決めるどころか、悩むことからも逃避していましたし。
 遥の服を着て茜が現れるのもよくわからない。っていうかそういうことは普通、してはいけないんじゃないのかね。ここから続くエンディングもどうかと。異常事態ここに極まれりという感じ。
 遥が目覚めたら二人はどうするつもりなんでしょう。目覚めたら妹と彼氏が結婚。しかも実はその子供が身に覚えのない(恐らく遥は覚えていないでしょう)自分の子だという。ヘタしたら狂いかねない衝撃だよなぁ。まぁ、その前に主人公が親父さんに殺されるような気がしますが。

5、天川蛍
 蛍の笑顔に助けられるかどうかがポイントなのでしょうが、全然全くそんな感じはしません。
 水月とあっさり別れられるというのもどうかと。シナリオ的な「逃げ」を感じてしまいます。
 個人的には、遥と結ばれるけれども、とても大事な人だったということで二人で墓参りに来るような、そんな感じの方が良かったように思います。展開として死が避けられないなら特に。
 やっぱり遥と水月を差し置くには弱いと思うんですよ。キャラ的にもシナリオ的にも。
 このゲームは第1章においてあまりに重い十字架を背負ってしまっている。それを乗り越えるには大きな努力が必要になる。
 「ホワイトアルバム」では誰のシナリオでもその点から目を逸らしていない。ケセラセラなんていう言葉ではすまない、すませられない。そのあたりが大きく違うんですよね。
 メインヒロインとその他が本気で存在やシナリオの違いになってしまっている。やはりこういったところは感心出来ません。

6、星乃文緒
 マニュアルに書いてある人物像がシナリオで表現されていないと思うのは私だけでしょうか。

7、玉野まゆ
 本人ではなく、主人公が強烈に足を引っ張っている。ただでさえ、駄目な主人公がまるでエナジードレインでもくらったかのようにさらに駄目になっています。おまけにそれが水月と別れる理由というあたり救いようがない(遥のことは自分で勝手に解釈して切ってしまったような?)。
 CGに最もばらつきが見られます。正直、どれも違うキャラに見えるんですが。

8、大空寺あゆ
 一人で違う世界を構築しています。しかし、それがこのゲームにある種の救いをもたらしているように思います。
 水月相手に爽快感を感じさせてくれるのはあゆくらいですな。言葉は悪くともそのやりとりは楽しく、根は意外と純粋。一緒にて楽しいです。こういう奴は。
 遥のことを無視したようなラストは残念。まぁ、他人の不幸に弱いから、水月とは異なる対応をしなくてはならないでしょうが。

9、香月モトコ
 Hシーンはありませんが、その外見はまさにエロゲーの女医そのもの。
 意志が弱く安定しない主人公を巧みに誘導する。特に水月シナリオではその傾向が顕著。
 実際にいたら非常に疲れそうで嫌な相手です。病院なんてただでさえナーバスになりやすい場所であんな言い回しを続けられていたらたまったものではありません。

 なにか文章量とキャラへの愛が反比例しているような(一部キャラ除く)。