いたいけな彼女(ZERO)

 罰ゲーム。秋吉拓巳(変更不可)と七瀬ほのかが付き合うことになったのは悪友たちとのいつものそれが原因だった。普段は滅多に負けるのことのない拓巳だが、不意に持ち出された引っ越しの話に意識をとられていたのかもしない。
 内容はクラスのいじめられっ子であるほのかに冗談で告白して一週間後にふるというもの。引っ越しまでの暇潰しと割り切って付き合うことにした拓巳だが、小犬のようなほのかの態度に何かが狂いだす。

 定着してきている感もあるが、微妙にそうでもない低価格ソフト。本作もそれに当たりますがそれにしてはCD2枚組と豪華。話によると有名な作品と同一のチームが作ったものらしいんですが詳細は不明。見当はついているんですが、スタッフロールがないので確認しようもなく。
 購入動機は淡い塗りの原画に惹かれて。

 システムは特に目新しさのないアドベンチャースタイル。
 足回りはZEROなので当然のビジュアルアーツシステム。相変わらず作品ごとに微妙に違ったりしますが、安定度はほとんど揺らぐことはありません。必要な機能は一通り揃っているので問題なし、と書きたいところなのですがそうは問屋が卸さず。
 メッセージの巻き戻しはウインドウ単位で行うんですが、残念ながらボイスのリピート再生ができません。
 さらに問題なのがBGMフェードという機能。これはボイス再生時に自動的に曲の音量を調節してくれるというものなんですが、なぜこのような機能があるのかよくわかりません。
 具体的にどういうことが起きるかというと、ヒロインほのかが喋る時だけBGMのボリュームが聞こえなくなるくらい下がります(デフォルト時)。加えて喋り終わると自動的にボリュームが戻るのでなんだかとっても違和感が。
 さらにトドメとも言えるのがボーカル曲の時。大抵どのゲームでもそうかと思うんですが、ゲーム中に使われるボーカル曲はクライマックスの良い場面で流れます。ここでもBGMフェード機能は遺憾なくその力を発揮。感動的なシーンでほのかが喋る度にボーカル曲が聞こえなくなるというウルトラ仕様。そして、喋り終わるとまた聞こえ始めるという脱力さ。明らかに違う切なさがプレイヤーを襲います。この機能を考えた人は一歩前に出るように。
 幸いなことにボリューム調節及びON/OFF設定が可能なので、これからプレイする人はOFFにしてから始めることを推奨します。

 シナリオは低価格ゲームらしく大きく2本に分かれています。相反する2つの方向、有り体に言えばほのかに優しくするか、冷たくするかに。構造的にシンプルなのはいいんですが、その方向が極端なので共通シナリオでは違和感を感じることも。ずっと優しくしているのに急に冷たくなったり、いじめ続けていたのに不意に優しくなったりなど。
 キャラクターデザインは非常に優秀。相手を信じることが出来ない主人公、些細なことで子供のように喜ぶヒロイン。そんな態度に得心がいくような設定がしっかりと用意されており、また全編でそれが貫かれています。
 短いながらもシナリオを通して主人公とヒロインの成長が感じられるのが好印象。そこに至る道も納得のいくものに仕上がっています。特に段々と表情豊かになっていくヒロインの様子は実に可愛らしいです。
 いじめられっ子と演技で付き合う。このことからもわかる通り、全体的な雰囲気は暗め。分類すれば間違いなく鬱方向のゲームにカテゴライズされるでしょう。それが本作の売りのひとつであるコスプレHにも微妙に影響を与えています。言うまでもなく最近の流行りを取り入れた結果だと思うのですが、鬱方向のシナリオだと威力が半減するように感じました。可愛らしい格好をさせて本気で酷い目にあわせるというのはベクトルが合っていないような気がします。Hシーンの比重は半々くらいなんですが、個人的には純愛ルートに集中した方が効果的であるように思えました。基本設定が暗いだけにそれを取り返すくらいの方が釣り合いがとれるかと。

 CGは部分違いなしで61枚と低価格ソフトとしては充分。まさに「いたいけな」彼女を淡い色調でしっかりと描き上げています。数少ない通常イベントCGも見ほれるほどの愛らしさ。
 立ちCGはヒロインだけ豊富に用意。他はどうでもいい存在なので実に適切な扱いだと思います。性格ゆえポーズはおとなしめですが表情、衣装は多彩に変化してくれます。シナリオの項で書いた「成長」もCGでしっかりと見せてくれます。
 Hシーンは数も多く、エロ度も相当なものがあります。シチュエーションもかなり多彩です。

 音楽はボーカル曲を含めて12曲と少なめながら場面に合わせた曲がしっかりと用意されています。切ない曲調の数々は実に聞き応えあり。早いところサントラを出して欲しいものです。
 ボイスは唯一のヒロインであるほのかのみ。パッケージにある「おもわずいじめたくなるキャラクターボイス」の言葉に偽りなし。確かにそんな声ですが、不思議とうっとうしさのようなものは感じませんでした。

 まとめ。いたいけなほのかが全て。これほどわかりやすく好き嫌いのハッキリする作品も珍しいかと。この手の作品では凌辱方向が濃くなりがちですが、純愛方向もしっかりと描かれているのも大事なポイント。ヘタにサブヒロインを用意しなかったのも良かったかと。
 お気に入り:七瀬ほのか(最初から他にいません)
 評点:73

 以下はほのか感想。ネタバレ要注意。







1、七瀬ほのか
 CG、テキスト、ボイスの結晶として七瀬ほのかという存在があります。
 どんなCGにもほぼ用意されている絆創膏が泣けます。どんなシーンにも張られていることでほのかという少女が浮き上がってくるようです。特に映画館のCGが印象的でした。
 「へーきっ」というセリフを何度聞いたことか。それは会話としての言葉ではなく、自らを鼓舞するための言葉。実際にシナリオに書かれていないだけで各所で使っていたのではないかと想像力を喚起します。
 「ふはーん」を頂点とする数々の嘆きの声。いじめられキャラの基本ではありますが、聞いているうちに愛着が出てくるから不思議です。

 凌辱シナリオはあまりに痛すぎて基本的には反対派の私なんですが、それでも教室で一人Hに興じるほのかの叫びには心打たれるものがあった訳で。あの凄味のような姿のためだけでもこのシナリオは「有り」とすべきなのか。うーん。
 純愛シナリオは本来のテーマらしくキャラクターの一挙手一投足が良かったです。次第にまともに話せるようになるほのか。志づ香のことを思い出しながら変わっていく主人公。後半になってほのかのふくれっ面を見た時にはちょっとした感動がありました。「To Heart」で初めて委員長の笑顔を見た時くらい。
 夏祭の約束をとりつけただけで飛び回って喜ぶ姿は(CGにはありませんが)あまりにも可愛かったです。あとトリプルを食す姿も。
 ハンバーガーショップに行ったことがなかったり、本屋にロクに入ったことがないという信じ難い部分にもしっかりと理由が用意されていて感心しました。
 Hシーンはヒロインを一人にしぼったせいもあって大充実。しかし、それだけに純愛シナリオに集中してくれれば、と思えてなりません。せっかくのコスプレももったいない感じです。
 エンディングはどうかなー、と思わないでもなかったり。あんな過去を持つ主人公だから結局はまともにはなれないってことなのかもしれませんが、あまり純愛エンドには見えませんでした。その直前まではすごく良かったですが。志づ香も天国でトホホな感じですよ。