ひとつ飛ばし恋愛(ASa Project)

 三枝和樹(変更不可)は父親の単身赴任に付いていく形で地元を離れていた。3年が過ぎてようやく戻ってきた和樹の目標はズバリ彼女を作ること。決意の電車内で膝に落ちきてきた謎の液体。それが運命の始まりだった。気になる相手と次々で会う和樹。ところが、その相手にはみな共通点があった。それは自分の身内と親しい人間であるということ。かくして身内を挟んでの壮絶なひとつ飛ばしな恋愛が始まった。

 ASa Project第5弾はあらすじ通り身近な相手を間に挟んでの恋愛アドベンチャー。企画が企画だからもちろん、飛ばし対象のルートはありません。
 購入動機は評判を聞いて買った前作「恋愛0キロメートル」がなかなか面白かったから。
 初回特典はFullサントラ入り碧里の作業用BGM、ファンタズマゴリアプロモカード。予約キャンペーン特典はドキドキ不意打ちキスCD。後者のCDは収録時間のほとんどが無音という放送事故のような男らしい仕様。聞くつもり満点で聞かないで作業用で聞いてくださいとあるので試したら、そっちに没頭してほとんど反応できませんでした。あくまでも個人的感想ですが使い方が難しいCDだと思います。

 修正ファイルが出ています。あてなくてもプレイに支障はありませんが、気になる方はあてておきましょう。

 ジャンルは企画の変わり種具合に比べてごく普通のアドベンチャー。名称はドキドキ間接恋愛AVG。
 足回りは代わり映えしません。というか、コピー&ペーストしたくなる(というかした)くらい本当に同じな仕様です。メッセージスキップは既読未読を判別して標準的なスピード。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能です。それなりに戻ることができますがスクロールバーがないのでちょっと戻りにくいです。おまけに矢印アイコンを使った逆上りは最大限、戻るとなぜかカーソルが下りアイコンに自動的に飛ぶので、クリック連打で逆上ると混乱しやすいです。ロード直後には使用できません。また、ボイスの発声中に起動すると音声をカットされてしまいます。
 幸いなことにNo waitは実装されました。

 シナリオはやはりギャグ主体です。もはや生態のようなもので、このスタイルなくしてはASa Projectではないのかもしれません。それくらいまずギャグありきです。そして、その中にはメタ発言が普通に含まれています。ただ、対象が限定されているので登場人物の芸風のような扱いになってます。相変わらず爆笑度は高いですが、はや5作目ということでASa Project歴が長い人ほど、くどさやマンネリ感が出てきそうで相性がより一層、大事になっているように感じます。
 本作はタイトル通り、主人公とヒロインの間に重要な役割のサブキャラがいるという不可避の構図になっています。これがほどよい旨味を生んでいて、笑い以外でも飽きの来にくいテンポの良い文章となっています。主人公のいない視点を数多くに入れることで説得力をしっかりと持たせています。これによりギャグに負けることなく、時にはギャグと力を合わせてキャラクターの魅力を十分に表現できています。笑いも込みで恋愛描写は楽しいです。
 しかし、課題のギャグからシリアスへの移行はお世辞にもうまくいっているとは言えません。中にはそれをギャグで強引にごまかしているケースもあってなかなか前途は多難そうです。テキストの細かな描写にも矛盾があるなど配慮不足も目立ちます。登場人物の細やかな機微を書く作品では無意味に焦点がずれてしまいかねない問題点です。
 複数ライター制の弊害は残念ながら大きくなってしまいました。シナリオが5本→4本となったことでより目立ちやすくなってしまった、ということもありますが売りのギャグの根源であろう寿りさシナリオはちょっと色々とフォローが難しい出来になってしまっています。他のシナリオはそれぞれの持ち味で押し通すことができなくもないのですが、さすがにこれはちょっと厳しいです。
 作品のうたう4つのポイント「距離を縮めていく楽しみ!」、「なんだか悪いことをしているような感覚!?」、「ドキドキとスリル溢れる恋愛過程!」、「カップリングを楽しもう!」もシナリオ(ライター)によって差が大きく、全体としても十全に果たされたとは言い難い感じです。企画当初のポイントに対する練り込み時間が少し足りなかったのではないでしょうか。このスタッフであればもっと有効活用できたように思います。また、飛ばし対象以外のサブキャラが良いキャラにもかかわらず活躍しない、出番が少ないというポイントによる欠点にもなっていました。
 Hシーンは各キャラ4回と平等ながら中身には差がありました。ポイント通りに頑張るキャラ、なぜか純愛系らしからぬシチュエーションばかりのキャラなど。全体的に尺はかなり短くあまりエロくありません。ただ、玉森桜シナリオのみゲームの方向性を間違えたようなエロさを生み出そうとしている感じでした。

 CGは今回も立ちCGの方が印象的です。ギャグ主体のテキストに合致した表情差分、変顔と呼ばれるものは健在でむしろ、やりすぎなくらいに進歩しています。個人的に寿りさの変顔は100年の恋も醒めそうなアレ具合でした(ある意味、ほめてます)。ヨゴレ役でない他のヒロインたちも喜怒哀楽の表現はとても大きく、テキストと共にその魅力を高めています。
 イベントCGは原画家3人制も相まってか、あまり出来のよろしくないカットも散見されました。良いものとそうでないものとの間に差があるように感じられます。
 SDカットはとても可愛らしく、またSDとしてとても個性的で良いアクセントになっているのですが、枚数が少ないのがなんとも残念。また、気になるほどではありませんが、通常CGとはあまりキャラが似ていません。

 音楽は各ヒロインごとにテーマ曲が設けられているのでプレイ中の印象はルート毎に意外と異なります。今回もギャグ中心の作品としてはそれらしい音楽は控えめというか普通の作品と同じくらいしかありません。むしろ、活用の仕方というか、演出の方にそれは表れています。ただ、Hシーンの曲はなんだか作品を間違えているような感じを受けました。「君が好き。」という曲は寝取られゲーに使われていても不思議はないくらいの重苦しさがあるような気がします。
 主題歌は耳に残る勢いある良い曲です。一方で挿入歌は内容はともかく、演出として使い方が悪いです。せっかく作ったのにぞんざいな感じのする挟み方は気になりました。
 ボイスは主人公のほか名前のないようなキャラには一切、用意されていません。演技はヒロイン、サブキャラともに素晴らしくテキストの長所がそのまま楽しみな聞きどころになってます。中でも、園原碧里役の美々永跳さん、蒼木夏芽役の遠野そよぎさんは見事なくらいキャラの魅力を高めています。

 まとめ。もっと高みを目指せたであろう作品。面白いからこそもったいない。この企画は仕込み(プロット)段階の練り込みが出来を大きく左右すると思います。ポイントを逆手にとって笑いに昇華するくらいのシナリオがあれば傑作になったかもしれません。
 普段は真っ当な作品をプレイしている人におすすめです。あと面倒なことに疲れた人とか。
 お気に入り:園原碧里、蒼木夏芽
 評点:70

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、園原碧里
 とってもおいしい出会いのヨダレ姫。この作品がどんなゲームか一発で教えてくれます。もちろん、ちゃんと立ちCGにヨダレ差分がある。しかも、ちゃんと可愛い。中盤になると主人公に萌えたりする時に同じカットを使ってくれるのもポイント高いです。全体的に立ちCGがしっかりと可愛いです。それでいながら脳筋なところがチャームポイントになってます。主人公と夏芽がいじるのが楽しいと感じるのが実に納得できます。
 紅との絡みが狙い通り面白いです。主人公に対するのとは違った態度が見えるというのも良いところ。

2、玉森桜
 あまりにも露骨な態度がASa Projectのヒロインらしいです。乗り換えるbefore,afterが酷すぎるほど酷くて思わず笑ってしまいます。まぁ、他のシナリオ以上に3人であることが重要ですね。五味淵千乃の存在あってこそ桜の身も蓋もない言動が映えるのですから。明日は我が身という言葉にしみじみと思いを馳せることができます。冗談抜きで3人でいる方法を真剣に考えた方がいいですね。3人ともが納得できる形を模索しないと将来、確実に火種になりそうです。

3、蒼木夏芽
 一見しっかりしているが実はそうでもないというあたりが魅力に繋がってます。順を追って変化していく心情が良い感じ。視点が多めなこともあって納得感があります。もちろん、姉のメグによる誘導も奏功しています。主人公は本当にいい姉を持ちました。恋仲になれたのは、メグのおかげと言っても過言ではないですよ。ちょっとくらいアレなのは目をつむりましょう。
 恋を自覚して以降の夏芽は飛躍的に可愛くなります。弟が恐れる一方でそうかなぁ、と感じる主人公が見る目ある感じになっていて良かったです。

4、寿りさ
 ちょっとツライですねー。「恋愛0キロメートル」ではメイン2人とサブ1人の計3人でギャグ担当となっていました。それが1人に集約されるのだから色々と歪みが出てきます。様々なネタを背負いすぎてヒロインとして挽回できない境地に達してしまいました。恋に目覚めても、いつまでもネタではないか、急に前のような態度をとるののではないか。そう思えてならなかったです。ヒロインが1人減ったというのも目立つ格好になってしまいました。隠れるほどの林にはとてもとても。