果つることなき未来ヨリ-from the future undying-(Front Wing)

 三森一郎(変更不可)が目を覚ますとそこは見渡す限りの広大な砂漠。確かに片道切符の愛機で敵空母に突撃したはずだったのだが……。どうやら行き倒れていたらしい一郎を拾ったユキカゼが言うには異世界に紛れ込んでしまったらしい。命あるならば再び戦場に戻らねばならない。こうして一郎は元の世界に帰る方法を探す旅に出るのだった。

 フロントウイングの新作は5つの種族が集う世界を描いたアドベンチャー。前作を踏まえた処置が随所にあって色々と大変なんだなぁ、と妙なところで感心させられました。
 購入動機はダイジェスト体験版がなかなか面白かったので。
 初回特典はグリザイアシリーズ アナザーストーリーゲームDL用コード。予約キャンペーン特典はビジュアルファンブック「無政府領土防衛民兵団戦記」、ボーカルコレクションCD「果てなき聖唱」の2つ。

 本作はそのままでは15歳以上推奨の一般作というカテゴリーになっています。基本同梱されている「X-RATED」レーティングカードに記載されたダウンロードコードを入力することで18禁版にバージョンアップすることが可能です。前作がアニメ化されたことで色々と余計なことを考える必要が出てきたようです。ちなみにインターネット環境は必須となりました。

 ジャンルはいつも通りのアドベンチャー。ただし、ルート分岐以外の選択肢がほぼ存在しないので、なけなしのゲーム性は全くなくなりました。1周目は完全に選択肢が出現しません。純粋な読み物と言っていいでしょう
 足回りは15周年のブランドにしてはすこぶる心許ないです。メッセージスキップは既読未読を判別して高速。シーンジャンプ機能が用意されていますが、ジャンプする単位が短いので場合によってはメッセージスキップの方が早かったりします。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがほとんど戻ることはできません。ロード直後でも使用可能です。
 前回の続きから始める機能が用意されています。

 シナリオは複数ライター制の影響がこれでもか、というくらいに出ています。章によって主人公を始めとしたメインキャラの設定が違ったりするのでポカンとする機会がなかなか多いです。最低限とも思える約束事が守られていないのはいかがなものでしょう。また、役割分担というものがすごく悪い方向に作用していて章ごとに作風そのものが大きく違ったりもします。最終章で各ヒロインルートに入るとより顕著に酷くなります。なんと最終章どころか全体の中盤くらいから当該ヒロイン以外のヒロインの出番がほとんどなくなってしまうのです。戦記ものっぽい体裁でありながら実際にはそれぞれが完全に別々に戦うという区別のされ方はいささかやり過ぎではないでしょうか。基本、主人公と当該ヒロインのいる場所のみを書くというスタイルが大きな肩すかしに繋がってしまっています。つまるところ2周目以降は事実上の番外編といった内容になってしまっているのです。実質的に並列ヒロイン制とは言い難く、悲しいことにその存在にも必要性がそれほど感じられません。
 日常の掛け合いでは説明しすぎない程度に世界観を交えて上手に語られています。笑いもそこそこ散りばめられているのであまり退屈することもないでしょう。ただ、それも章によって差がありますが。
 惹かれ合う過程はそれほど見当たりません。全員、主人公とは初対面なのですが、なぜか最初からとても好意的です。確かに主人公は魅力ある人物ではあるのですが、一見してはとてもそれが伝わりにくい人物像にも係わらず、すぐに受け入れられるどころか特別な存在となってしまいます。なのであまり期待するのは得策とは言えないでしょう。
 Hシーンは所詮、追加項目といったところでしょうか。ないよりはまし、というさじ加減がある意味でとても見事です。ボリュームに比べて回数も各ヒロイン本編1回、クリア後1回ととても少ない上にお世辞にもエロ度が高いとは言えません。用意できないキャラは妄想でお茶を濁す始末。非常に残念です。

 CGはこのジャンルのゲームらしくはなく、世界観全体を描写することに注力しているように感じます。キャラクターばかりに偏ることなく技術や生物といったところにしっかりとスポットが当たっています。背景にも十分な重みがあります。しかし、それだけに挿絵以上の意味がないのは実にもったいないです。

 音楽はけして悪くはないものの、世界観や扱う題材を考えるとどうもインパクトに乏しい曲が多いように感じます。音楽だけで作品の顔となるくらいの強い印象を残す曲を持ってきても良かったのではないでしょうか。状況に応じた曲作りはできているだけに余計に物足りなく思えてしまいます。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技の方は特に問題ありません。ユキカゼ・ジーンブラッド役のかわしまりのさんはさすがの貫祿を感じました。メインヒロインの面目躍如と言って良かったかと。一方で他のヒロインたちはややパワー不足のようにも。なまじ飛竜隊の面々が個性的なだけに。

 まとめ。あまりにも歪な作品。この構成なら純粋な一本道にした方が良かったのではないでしょうか。複数ヒロインにした意味がほとんどありません。メインライターの藤崎竜太氏が一人で書いた方がずっと完成度は高くなったと思います。9800円という価格もこれでは正直、高いです。
 お気に入り:名護、カーマイン、エレン
 評点:60

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。








1、ユキカゼ・ジーンブラッド
 唯一まともと言えるルート。しっかり結着をつけるこれに比べれば他はオマケ同然です。まぁ、一番いいのは1本のルートでしっかりとヒロイン全員に出番があることですけど。あるいはそれを踏まえてヒロイン毎に物語が変化することでしょうか。
 最初っから一郎を背中に乗せるのは違和感がありますね。設定本にもほぼありえないケースとまで書かれているのに本人が納得しているようには見えないのに乗せている……。
 セツナのことはよーわからん感じでした。どうしてサイラスを裏切ったのか、あの時に何を考えていたのか。

2、アイオ=ライオ=カミリア
 年齢不詳のルルカリオン。キュリオとの因縁や世界放浪にオリバーのことを踏まえるとどう考えても計算が合わない感じ。キャラバンに拾われて10年となっているが、それならオリバーは何歳なのでしょう?
 じーさんのこともすごく謎。どうにも納得感に欠けるシナリオでした。

3、メルティナ
 せっかくエロい娘さんなのにそれが活かされることはなく。謎の物真似が好きだが説明がないのでよくわからない。
 聖唱が無敵な上に便利すぎて苦笑。

4、リア
 存在意義が最も希薄なヒロイン。物語も本筋と最も関係がない。オチも露骨にどこかで見たことある感じで既視感がすごかったです。なんだか方程式に当てはめて作ったような潤いに乏しいシナリオ。

5、名護
 楽しい狂言回し。様々な意味で彼女がいないとストーリーは進展しない。なぜかたまに下ネタ好きにトランスフォームする。結局、彼女と会話しているときが一番、面白かった気がします。

6、モーリン
 見た目が全てな感じの飛竜。鈍臭いけどしっかり嫉妬するあたりも良かったです。

7、カーマイン
 そこらのヒロインよりもよっぽどヒロインらしいキャラ。家族がマジーの太陽で死んだりもしているし、資格は十分です。主人公に弄られたことを後輩にも実践する姿がとても良かったです。

8、フラン
 目立たないと思っていたら中盤にしっかり出番があった。こちらも背負う設定はヒロインに相応しいくらい重たいものでした。

9、エレン
 巨乳だから重爆撃タイプとは何か深いものを感じます(そうでもない)。X-RATEDの犠牲者のような設定がなんとも。