CROSS CHANNEL(Flyingshine)
夏休みに強行した放送部の合宿。結果は惨憺たる有様であった。崩壊寸前の綻びが明るみに出ただけの結果。仕組んだ張本人である黒須太一(変更不可)は落胆しながらも8人の絆をなんとか寄り合わせようと奔走する、主にセクハラを用いて。放置されていた放送部のアンテナが完成する日に起こることは。
新生(?)Flyingshine第1弾。中身はともかく、パッケージ回りにはそれほど力は入っていないようで、初回特典の類は特になし。
購入動機はまず松竜氏の原画と放送部という設定に惹かれて、次にPUSH!!掲載の体験版で、そのシナリオに引き込まれて確定。発売日購入に至る。
毎度お馴染みの修整ファイルが出ております。自動セーブをONにしていると2周目がループしてしまうそうです。使う方は忘れずに落としておきましょう。
システムは至極オーソドックスなアドベンチャースタイル。特筆すべきような事はありません。
足回りは標準クラス。メッセージスキップは平均以上に早く、既読未読もしっかりと判別してくれます。
メッセージの巻き戻しはウインドウ単位で行います。ロード直後にも使用可能ですが、ボイスのリピート再生が出来ないのが残念です。演技が秀逸であるだけに余計にそう感じます。
シナリオは大人の事情で田中ロミオと名乗る某有名ライターが担当しているので折り紙付きのレベルの高さ。全編通して安心して読み進められる書き手の存在というのは本当に貴重だと感じさせてくれます。
本作は骨格こそシリアスであるものの、シナリオを進める基本ベースは主人公のセクハラに次ぐセクハラと、まるで濁流のような激しいボケ倒しによるギャグ。ネタ的にはあまりマニアックさはなく、爆笑度はかなり高め。しかしながら、主人公のキャラゆえに人を選ぶ面も。
主人公は天邪鬼タイプゆえ、ヒロインに好かれるまではひたすらに攻勢をかけますが、いざ好意を寄せられると逆に逃げてしまう特性を持っています。これにシナリオ上の事情が絡んで、プレイヤー的にはかなりやきもきさせられることもあったりなかったり。
シナリオ構造的にかなりうまく、序盤に張った伏線を順序よく確実に回収していくので爽快感はかなりのもの。手法そのものに感心させられることもしばしばありました。
正直、欠点らしい欠点が見当たらないのですが、ただ一点だけ気になることが。どうもエロゲーというものに対して皮肉というか、アンチテーゼの面が強過ぎる、そんな印象を扱うネタ全体から感じました。まぁ、作品の出来そのものとは関係ないですが。
CGは透明感のある原画を活かした美しい彩色がなされています。純粋に次のCGが楽しみになるものに仕上がっているかと。
枚数的にはメイン61枚にSDライクな中サイズカットが22枚と微妙~妥当クラスというところ。個人的にはメインがもう10枚くらいあると迷うことなく満足といえたのですが。Hシーンに割く枚数が少なめなのが残念。SDカットはテキストがなくとも笑えそうなセンスの良いものが多数用意されています。
立ちCGは表情、ポーズとも豊富に用意されていて会話を盛り上げる一助になっています。全体的にキャラクターの性格が見えるカットが多いのが特徴。
背景は悪くはないのですが、キャラクター原画が良すぎるだけに一段落ちて見えてしまうのは難しいところ。色彩の面では違和感なく立ちCGと融合しています。
音楽は心に染み入る曲が豊富に用意されていて、自然とゲームに引き込まれます。ギャグ調の曲、神秘的な曲と雰囲気に合わせた曲もしっかりとあり、全体的なレベルの高さが窺えます。特に23.Signalは場面の卑怯さも手伝ってうっかり泣かされそうになるほどの出来。早いところサントラを出して欲しいと切に願います。
ボイスは職人芸と言っても過言ではないレベル。純粋な声だけでなく、吐息や息をのむ様などの演技が素晴らしく、かなり聞き応えがあります。メンバー全員のレベルが高いのも好印象、女性陣は言うまでもなく、男性陣は表の有名どころが3人とかなり豪華。
まとめ。トータルバランスに優れた傑作。素直に賞賛する以外の言葉がほとんど出てきません。ただ、個人的な好き嫌いで言ったら結末はやや苦手です。作品の出来そのものは疑いようもありません。体験版をプレイしていない人は体験版もオススメ。製品版では不可能なお遊びシナリオが入っています。特にミキミキファンは必見。
お気に入り:支倉曜子、山辺美希(ほとんど全員といってもいいくらいなんですが、厳選してこの2人)
評点:90
以下はキャラ別感想。ネタバレの嵐につき要注意。
1、堂島遊紗
この娘は本人よりも立ちCGもないおかんの方がお気に入りです。個人的には是非見たかったんですけどね~。年月のもたらす残酷さを噛みしめる意味でも。
本人の方は扱いが一番おざなりだったんでどうよ、ってのが正直な感想。途中ではこれが友貴と先輩とどう絡むんだろうと思っていただけにガッカリ度も大きかったですわ。この娘ひとつとっても、このゲームってば切ないです。ホントに。
2、桜庭浩
「男でもいい!」
このセリフを聞いた時にはしばらく人語を発することが出来ませんでした。声にならない笑いを止められず。セリフの妙もありますが、声優は偉大だ、と再確認したりしてました。こんなところで。
基本的に面白い奴ではあるんですが、あまり絡んで来ないのが残念。柿ピーナッツのオチは素晴らしかったです。
3、島友貴
友貴の面白さはなんだか1周目に集約されすぎてしまっている印象があります。彼女の話とか、読書の話とか(パワーパフボーイズ?)。ああ、シスコンの話は至っておとなしかったので胸をなでおろしました。
4、新川豊
1周目でとても気に入っていたので真相が明かされた時はショックが隠せなかったですよ。いや、作る方もそれを意識して好青年に設定したんでしょうけども。太一に対するリアクションが良くて本当に好きだったんで、もーどうしたものやらって感じ。あのシーンでは私は半分以上、豊視点だったので言い訳できないではなくて、何を言ったらいいのかすらわからないって感じでした。もし私が豊かであれば逃げてしまって階段から墜死とかそんな末路になりそうですわ。
まぁ、豊の真価はハラキリ丸である時に発揮されると私は信じていますけど。
5、宮澄見里
メガネさんなんですけど、相手の魅力を際限なく引き出す太一トークとのんびりボイスによってかなり救われた感じ。それでもなんとなくプレイいたら先輩のHシーンを見ることなく終章「たったひとつのもの」に進んでしまったあたり、私らしいなぁとかしみじみ思いました。
6、七香
彼女の正体に気付いたのはかなり後でした。確信したのは曜子ちゃんを毛嫌いする様子を見た時。まぁ、あんまり気にしていなかったというか、本当の意味でキーパーソンではないだろうという考えがなんとなく頭にあったから。
彼女も友貴同様、面白さは序盤に集中している気がします。やっぱり最初の会話が一番印象に残ってますから。
7、桐原冬子
太一の気持ちはよく分かるデス。群青色のことを除いても、冬子は高いところに立っているところがいいんですよ。世界で随一にして唯一(たぶん)の武士っ娘ですから。ミニマムカテゴライズ万歳。ハラキリ丸を振るうごとに銀河の歴史がまた1ページって感じですか(声優繋がりネタ)。あのセリフは宇宙刑事シリーズとかを見ていた人間にはクるものがありました。
8、佐倉霧
本心を言えば感情の動きとしては納得いかないものがあるんですよ。え、それでそこまで懐くんですか? って感じで。しかし、そう思いながらもAfter霧の姿は可愛いと思ってしまった時点で私の負け、細かいことはあっさり棚上げしてしまいます。
シーンとしては短いんですけど、あの会話は大層、良かったです。なぜ、霧には2回目のHシーンがないのかと血涙を流しそうになりました。なにより、曜子ちゃんと戦う発言には痺れました。そこまで言われては陥落するほかありません。
ミキミキとのエピローグもしんみりしていてお気に入りです。
9、山辺美希
あのノリの良さは素晴らしいものがあります。まして、それを育て上げたのが自分だとすればまさに感無量。リセットされてしまった彼女の弱々しさもギャップとして効果的でした。なるほど、これなら霧も守らなければと思う訳ですよ、納得。
レベルを上げた美希のシナリオがこのゲームでは一番良かったです。読んでいて一番、カタルシスを感じられるところでしたし。生(経験)への執着がまざまざと伝わってくるあたり、やはりうまいなと。そして、美希の胸が成長しているのが伏線と気付いた時には呆気にとられました。よくそんなことを思いつくな、と。
10、支倉曜子
まぁ、ぶっちゃけ文乃ちゃん@「果てしなく青い、この空の下で…」な訳ですが。それでもいいものはいいというのが私の持論です。
太一は彼女を嫌っているために彼女と会っている時だけシンクロ率が急降下してました。だってねぇ、その理由を教えてくれるのが最後の最後ですから理解できるはずもなく。太一はいくらコミュニケーションしても無駄みたいなことを言っていますが、そんなことないと思うんですけどねぇ。どんな言葉でも反応が見えにくいだけで、していない訳じゃないんですから。
それに、新川家の連中をほぼ皆殺しにした時のことなんですが、気になることもあるんですよねぇ。太一はあそこで危険な本性をさらして、死という現実の重みもあって曜子ちゃんは動けなくなった。問題なのは殺しが終わった後。獣の前で怯えてしまった彼女に何も起きなかったんでしょうか?
先輩の前などでの太一の変化を見ても何もなかったとは思えない。私はそこに何かがあったからからこそ、曜子ちゃんは太一を育て直したんじゃないでしょうか。そんな気がします。裏切りを後ろめたいと感じただけでは無償の愛を抱く理由にはならないんじゃないでしょうか。
後はシナリオで少し気になったことを(上で書いたことと、矛盾しますが)。
終わってみて考えると1周目というのはなんなんでしょうね。あの放送部の結束はあり得ない事態ではなかったのでしょうか。だからこそ太一は一人ずつ送り返すという選択をとらざるを得なかったのだし。付け加えるなら夏合宿もですか。断片的にしか書かれていないとはいえ、あれも1周目では大層、穏やかな雰囲気に見えます。しかし、後の方ではひどい合宿だったと言ってますし。うーん。
もうひとつはラスト。どうにもよくわかりません。括弧内での会話は繰り返される世界で死んだ仲間たちってことなんでしょうか。それとラストのアンテナ。あの世界では虫もいないはずですが、セミの声が聞こえています。結局は太一も元の世界に行ったということなんでしょうか? どうにもよくわかりません。