オーガストファンBOX(オーガスト)

 ハンコ絵とは不思議なもの。駄目出しされる要因という側面を持っていながら、一方では多くの支持を得ることもある。原画家にはそうした作家が数多く含まれている。山本和枝氏しかり西又葵氏しかり。ハンコ絵でも唯一無二であればそれは大きな武器になる。オーガストの原画家べっかんこう氏もそうした道を進みつつあるんでしょうか。事の是非はともかく、顔は同じでもデザインは変えた方がいいと個人的には思います。
 およそデビューから2年と半年。早いのか遅いのかわかりませんがオーガスト初のファンディスクが発売されました。封入特典はBGMアレンジCDと特製ブックレット(兼マニュアル)。後者は100ページを大きく越えています。マニュアルに力を入れる姿勢は素直に感心。
 購入動機は果して自分でも何なのか実はよく分かりません。ハッキリしているポイントとしては「プリホリ」から「はにはに」へエロ度が下がったように感じられたが新作は果たして? という疑問から。

 コンテンツは大きく4つ。11本のADVシナリオ、クイズゲーム、オーガストの作品紹介オーガスティック・クロニクル、テーブルゲームPrincessPONday。このうち最後のものだけは別にインストールする必要があります。
 「11本のシナリオ」
 システム、足回りは「はにはに」にほぼ準拠しています。中編から短編なのでバックログはいいとして、相変わらずメッセージスキップが速いとは言えないのが気になるところです。立ちCGの切り替えがほぼ等速なのはどうしてなんでしょうか。
 シナリオ。11本の内訳は独断と偏見で短編4本、中編7本というところ。さらに作品別では「バイナリイポット」1本、「プリホリ」2本、「はにはに」7本、コラボレーション1本。さらにHシーンを含むのは「プリホリ」が1本に「はにはに」が3本。
 このデータ面の段階ですでに重大な問題が見えています。オーガストファンBOXというタイトルにもかかわらず「プリホリ」はコラボレーションを数に入れても3本、「バイナリイポット」に至ってはたったの1本。しかもHシーンはなし。ここまで極端な配分にするのであればせめてパッケージに記載するべきだったのではないでしょうか。あまりにもオーガストファンという言葉が示す内容が不明瞭です。
 肝心のシナリオの内容も何を目指したのか、Hシーン搭載シナリオ以外では意図不明のものが散見されます。どうにもライターの意欲が伝わってきません。Hシーン搭載のそれはご褒美的というよりは後日談にHシーンが含まれているといった印象。対象ヒロインは「プリホリ」はレティシアにシルフィ、「はにはに」は天ヶ崎美琴に藤枝保奈美と秋山文緒。つまり、この5人以外のヒロインをお気に入りに据えているユーザーは……。
 テキストはこれまでと同様。従来シリーズが楽しめた人は面白く感じるでしょうし、退屈だった人はつまらないと感じるでしょう。個人的には後者で進歩が見られないのは残念なところ。ネタバレに関しては一応の警告がされていますが、その分だけ本文中においては隠そうという意図がほとんど感じられないので未経験者はいくらか戸惑うのではないかと。
 CGは従来CGと新規描き下ろしCGを併用して構成しています。立ちCGはもちろん従来のものを使用。描き下ろしについてはややバラツキがある印象を受けました。特に新規攻略ヒロインである秋山文緒は立ちCGと比較してやけに幼く見えるような気がします。
 音楽は新曲もありますが基本は従来曲。アレンジをしている曲もあるのかも知れませんが、こだわりのない私にはよく分からず。
 ボイスは基本的に同じ声優さんを起用していますが、数名は諸般の事情で新しい声優さんにバトンタッチしています。演技的には特に違和感を感じることはありませんでした。
 プレイしてみると11本という数字ほどにはボリュームを感じることはありませんでした。

 「クイズゲーム」
 ADVのフォーマットで進行しつつ、RPGでいうところの戦闘のようにクイズが挿入されます。ルールとしてはライフ制でスタート時に4つ。つまり3問まで間違えられます。ただし、失ったライフは対戦が進んでも回復してくれません。コンティニューは一度だけ可能になってます。
 シナリオというかテキストはクイズを進行させるためだけのものですからとても単独で楽しめるものではありませんが、主人公のキャラのノリが良くなっているのでなんとなく新鮮に感じます。
 クイズは三択形式でファンを自称する人間ならばきっとわかるであろうレベル。プレイしていればある程度以上はわかるかと思います。

 「オーガスティック・クロニクル」
 未経験者のための作品解説……、だと思うのですが隠すことなく思い切りネタバレしているので要注意。経験者には懐古的な気持ちになる以外はほとんど意味はありません。これを閲覧すれば恐らく上のクイズは答えられるかと。

 「PrincessPONday」
 早い話がぽんじゃん。言うまでもなく牌の絵柄は各作品のヒロイン達なんですが、ここでも恐ろしい差別が生まれています。「プリホリ」と「はにはに」は全ヒロインが揃っているのに「バイナリイポット」だけメインヒロインに孤軍奮闘させるというあんまりな仕打ち。何がそこまでスタッフにさせるのでしょうか。出したくないのに事情があって仕方なく出している、なんだか段々とそんな風に感じられてきてしまうのですが。
 難易度は低め。リーチ後は自動進行なので楽チンです。役一覧もいつでも自由に見られます。対戦相手に勝利する度にゲスト作家が描き下ろした壁紙が見られるという仕組み。また、それぞれの役に脳みそホエホエ氏が描き下ろしたカットが用意されています。こちらもCGモードに登録されるので微妙にチャレンジ意欲を沸き立たせてくれます。
 ちなみになけなしのストーリーはクイズゲームと全く同じと言い切っても問題ありません。

 まとめ。取りあえず改題が必要な気がするファンディスク。「バイナリイポット」には嫌な思い出しかない、と言わんばかりの不当待遇が泣かせます。素直に「はにはに」ファンディスクでは駄目だったんでしょうか。
 ファンディスクを作るとそのメーカーがどういうゲームを作っているか、が問われます。似たようなゲームばかり作っているとリーフの「アルルゥとあそぼ!!」のような幅広いコンテンツは用意できません。
 箱の中にはワクワクするようなものは入っていなかった、というのが正直な感想。ムービーなど作る労力があるならシナリオかコンテンツのひとつでも増やすべき。ファンでない人間をファンにするだけの魅力は感じられませんでした。
 お気に入り:特になし
 評点:55
 
 作品の性質上、キャラ別感想はありません。