あるす☆まぐな!-ARS:MAGNA-(light)

 ある日、山下九十九(変更不可)は王立の魔法学院からスカウトされた。平凡な少年であるはずの彼は実は「龍の相」という特異な力を内に秘めていたのだ。編入試験もなければ授業料の負担も一切なし。全て国民の血税から賄われるのだ。ただ、ちょーっと、ちょーっとだけ魔法技術の発展のために協力してくれればいいという。怪しさ満点の誘いであったが両親は狂喜して息子を送り出す。果たして九十九の運命は。

 lightの新作は魔法を技術として確立しようとしている世界のアドベンチャー。
 購入動機は意欲的な企画に見えたこととそれなりに原画というか塗りが気になったので。
 初回特典はSpecial Fan Book。内容は名ばかりの設定本。のっけから随分と文字が多いです。まぁ、確かにFan向けなんでしょう。

 それほど重大な内容でもありませんが修正ファイルが出ています。該当する方、気になる方はあてておきましょう。バージョンによってはセーブデータが使えなくなったりするので要注意。

 ジャンルはごくごく平凡なアドベンチャー。
 足回りはあまり誉められない仕様です。メッセージスキップは既読未読を判別して、速度「標準」はハッキリと遅く、速度「高速」もそれほど速くはありません。また、スキップ稼働中はバックログを起動できないので一旦、解除する必要があるので不便です。
 バックログは別画面で行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能ですがそれほど戻れません。ロード直後でも使用可能。
 アイキャッチ演出が頻繁に入ります。数秒程度のこれを飛ばせないことで、テキストの内容とも相まってかなりテンポを悪くしています。
 コンフィグでメッセージ速度を設定してもプログラム側でしょっちゅうコントロールされてしまうので意味が薄いです。自動送り状態になっているエンディング付近で(所用などで仕方なく)コンフィグ画面にしておくと再開した時には曲が終わっていたりと不親切に感じます。日常会話ですら自分のタイミングで進められないのは勘弁して欲しいところです。
 エンディングロールが飛ばせないことはなかなかに不便です。
 画面左上にシーンタイトルが表示されます。すぐに消えてしまって読みづらい上に名付け方がワンパターンなのであまり意味が感じられません。

 シナリオはプロット上からほとんど肉付けされておらず。各キャラクターの行動から逆算して動機や目的を知る(確認する)ケースが散見されました(もちろん、あまり捻りもないのでパターン解析から流れを読むことはできますが、それはあくまで予想であって確定情報ではないので)。細やかな描写というものがまるで足りていません。完全に説得力不足です。
 共通ルートが非常に多くを占めているので1周目だけがとても長く、以降は落差が大きくなります。2周目以降は暇潰し道具が必携です。しかも、選択肢も多いのでそれなりにモニターも注視しなくてはなりません。
 共通ルートの大半が魔法技術に関する講義や諸設定の解説です。最初は新鮮味もあるのですが、あまりにも続くので段々とだれてきます。合間合間に各種学園イベントが差し込まれる格好です。この部分もやはり共通やわずかに異なるだけのシーンが多いです。また、話が継続せずに飛び飛びになるのでぶつ切りのような感覚を受けやすいところも。
 それが終わるといきなり雰囲気を変えて個別ルートに入ります。ここからがとても性急で尺も短くあっという間にエンディングです。かなり乱暴な話のまとめ方に見えました。6本中3本は恋仲になる相手が違うだけのほとんど同じ話です。
 どうも設定を構築し、テキスト中でそれを説明したところでライターが満足してしまった印象があります。情熱がそこに集中しているように感じられてなりませんでした。
 各キャラクター間の関係など雰囲気作りは悪くありませんし、掛け合いも自然でキャラも立っています。しかし、シナリオで活かしている場がまるでありません。詰め込み授業のような設定解説も水をさしているように感じます。
 以上の前提があるので惹かれあう過程はほぼありません。あっても唐突で要点のみ書き出している感が強いので感情移入しづらくなっています。
 Hシーンは各ヒロイン2回程度。ほとんどが理由はなんであれ、いきなりなものばかりです。用意する場所に困ってエンディングに出しているように見えるものも。エロさは尺の短さを差し引いてもほとんど感じません。

 CGはイベントCGも立ちCGもSDカットもそれぞれによって出来に差があります。特にアイキャッチのSDカットは全体的に出来がよろしくないというか普通に可愛くありません。
 原画家がフィギュアを見ながら描いたとインタビューで答えただけあって(?)Hシーンは全体的にエロさが不足しているように見えます。シチュエーションがどうであれほぼ全裸であることが多いです。個人的には服を着ている方がエロさがあるように感じました。

 音楽は全体的におとなしめな曲が揃っています。神秘性を意識しているのか勢いの感じられる曲はほとんどありません。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。幼なじみのヒロインは演技がわざとらしいというか、やりすぎのようにも感じましたが、全体的には問題ありません。

 まとめ。ユーザーがアナザーストーリーを書くための叩き台のような作品。実際、設定だけ用いて好きなユーザーが書いた方がいいと思います。
 結局、何を見せたいのかあまり伝わってきませんでした。設定だけはFan Bookと合わせて嫌というほど伝わってきましたけど。
 お気に入り:荒井瑠華
 評点:50
 
 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、水沢のえる
 幼なじみとしては設定が甘い。と落とし神さまなら言いそうです。特徴が薄く、ちょっと理不尽な言い方をするならどうしてこれで幼なじみかという感じ。イベントなども含めて何もかも不足しています。大事なものが。

2、一条杏
 遠慮なくどつき合える間柄というのは貴重で複数のキャラクターとの間を架け橋のようにとりもってくれる便利なキャラなのですが、内面があまりにもアウト。説明されても言っている意味がよく分かりません。取りあえず、なぜ主人公が好きかを納得できるよう教えてもらわないと以降の言い分にも繋がりません。
 エンディングカットが使い回しというのはなかなかたまげました。

3、峰崎紗久良
 ライターが同じだから仕方ないですが、「Imitation Lover」でも印象がそっくりな人がいました。だからってシナリオの内容まで似たような感じにしなくともねぇ。

4、荒井瑠華
 全体の中ではかなりましなヒロイン。それぞれの流れにそれなりに納得がいくし、魅力的にも書けていると思います。ただ、主人公が「龍の相」だから問題が解決するし、結果として好きにもなってしまうというのはあまりにも安易な気も。基本的に主人公は何もしていない訳だし。

5、円城寺・アレックス・雪尋
 残念ながらあまり可愛く見えないのが最大の弱点。中性的というのがある意味で成功しているのでしょうが……。
 立ちCGではどう見ても胸の下に影がある訳ですが、これは他の生徒には見えていないという設定なのでしょうか。術服の時も胸の谷間が見えてるし。主人公のミラクルアイだけが看破できるということなんでしょうか。
 せっかくの私服をHシーンで全て脱がせるあたり、もう何も言う気がなくなります。

6、黒野美子
 名前の由来には乾いた笑いというリアクションでした。制作者視点では悪くないと思いますが、名付け親からしたらそれはどうなのよ、と。
 あまりにも簡単に感情が芽生えて萎え。これなら龍の相が彼女という存在を言ってみればハッキングしているなんて設定があった方がまだ得心できました。管理官や玉藻先生は遊んでいたのでしょうか。

7、六道玉藻
 Fan Bookの説明がなければあの唐突すぎる正体判明にはあきれ返っていたと思います。だってあの人、本体の役に立っているようには見えないのですが。
 それにしても名前が玉藻だから正体が九尾の狐に決まっているという説明には腰を抜かすかと思いました。