天色*アイルノーツ(ゆずソフト)

 教師という職業をこのまま続けてもいいものか。鷺ノ森透(変更不可)は壁に行き当たっていた。そんな時、恩師から誘いの電話があった。一旦は断ろうとした透であったが、励ましもあって引き受けることにした。その赴任先はなんと空の上。50年ほど前に突如、出現した空飛ぶ島ライゼルグ。そこにはけして地上では見られないような教え子たちが待っていたのだった。

 ゆずソフトの新作はややファンタジックな要素を含んだアドベンチャー。
 購入動機は原画買い。ただ、前作がもうひとつだったので心配でありました。
 初回特典はChaosTCGプロモーションカード、ゆずぱら限定カード入手コード。こういう感じの、それと感じにくい初回特典が増えてきましたねー。予約キャンペーン特典はラフ原画集「天色*アートノーツ」、「おかえりイチャラブCD」にむりりん氏複製色紙。早期予約特典としてこぶいち氏複製色紙もありました。今回は瞬殺なんてことはなかったようですが、逆に大きく余らなかったか気になります(次回作の時が心配なので)。ラフ原画集は相変わらずSDカットのまで収録されていて嬉しい限り。

 修正ファイルが出ています。それほど重大なものではありませんが気になる方はあてておきましょう。ただ、ゆずソフトのトップページからではわからず、「天色*アイルノーツ」のページを閲覧しないと出ていることがわからないのはちょっと不親切なように思います。

 ジャンルは安心のいつも通りアドベンチャー。
 足回りはさらに改良されました。メッセージスキップは既読未読を判別して高速です(それぞれの処理を選択して3段階から選択可能。遅いモードもあります)。次の選択肢へ機能と前の選択肢に戻る機能も標準装備されています。
 バックログは別画面にて行います。ホイールマウスに対応、ボイスのリピート再生も可能でいつでも最初まで戻ることができます。ロード直後にも使用可能。さらにこの画面から好きなシーンへジャンプする機能が用意されています。アイコンにカーソルを合わせるだけで当該シーンの様子が画面上に表示されます。この時、通常画面左上に表示されているChapterもわかるようになったのでさらに使いやすくなりました。
 最近、取り入れるメーカーが増えてきたCONTINUEをゆずソフトも実装しました。ロード画面を開かなくていいのでとても便利です。
 変わった機能としてフェイスウインドウを表示するかどうかを選択できるようになりました。初期はオフになっています。イベントCG表示の際にもヒロインの感情がよくわかるので個人的にはオンが良いかと思います。

 シナリオは萌えゲー寄りにシフトしました。前作の出来が作用しているのかはわかりませんが、シナリオゲー方面はプロット段階からあまり目指していないように見えます。率直に言ってパッケージでもひとり特殊感を出しているシャーリィ・ウォリックのシナリオ以外は物語が極めて弱いです。その分だけキャラクターの魅力は前面に出ていて共通シナリオの雰囲気はとてもいいです。掛け合いは立ちCGの豊富な表情、ポーズとSDカットの強力な援護射撃もあって、とても賑やかで活気があります。
 問題なのは個別シナリオです。複数ライター制の弊害も当然のように出ていて、共通ルートの楽しさが減衰してしまっているシナリオも少なくありません。中にはキャラがハッキリ違うと感じられるテキスト描写もありました。厳しいのは共通よりもヒロインの魅力が損なわれているケースがあること。そして、主人公の諸々がそれを加速していること。どうも、主人公が教師であることが足を引っ張っているかのような、そもそも論を持ち出したくなるようなシナリオ展開が多いです。詰まるところメインライター以外の配慮が圧倒的に足りていないように感じます。
 世界観ももうひとつ。せっかく用意したライゼルグという舞台がなんちゃってファンタジー以上の意味を持っておらず、都合の良さばかりの面を感じやすいのは残念なところです。しかし、皮肉なことに物語としての弱さがあるためにそれほど深刻なことになっていません。
 惹かれ合う過程はシャーリィシナリオ以外ではなかなか苦しいです。あるにはあるのですが、その「ある」がすごく強引に用意されたものなので逆に強引さが際立って見えてしまいます。また、主人公の方はいずれのシナリオにおいても動機が不在ぎみです。
 Hシーンは各ヒロイン4回程度。ただし、1回は本編ではなくAFTERとして別枠でクリア後に用意されています。一部のシナリオでは本編中に足りないように見えたり、反対に多くて困っているように見えることも。AFTERだからこそ、というような特別さはあまりありません。エロ度は最近の純愛系では普通レベル。

 CGは作品の顔たる役割を十二分に果たしています。イベントCG、立ちCGとも非常に高レベル。原画買いの人を裏切らないカットの数々に質の高さを感じます。イベントCGはポイントを押さえた構図が多く印象に残りやすいです。立ちCGは多くの表情とポーズがセリフひとつの間にくるくると変化して可愛らしさを増しています。前述したようにイベントCG表示中もフェイスウインドウという形でしっかりと活かされています。
 さらに、本作ではヒロインの髪形もよく変わります。中でも白鹿愛莉はデフォルトの髪形のせいもあって変化にインパクトがありました。手間暇がかかるだけにキャラクターへの愛情をより感じます。
 SDカットは前作とは打って変わって大車輪の活躍が光ります。デモムービーを皮切りにアイキャッチや通常カットなどメインCGと共にヒロインの魅力を大きく高めています。ただ、残念なことにアイキャッチCGは鑑賞モードに登録されません。
 Hシーンは原画家こだわりのエロさを感じさせます。各シチュエーションにおける思いがこもっているかのようでした。
 些細なことですがスタッフロールのクレジットは少し読みにくいように見えました。

 音楽は舞台のこともあってか異国情緒を感じるような曲も用意されています。全体的に耳になじみやすい、それでいて飽きにくい曲作りが意識されているように感じました。
 ボイスは主人公を除いてフルボイス。演技の方は問題なかったですが、なぜかコメディ方向のセリフばかり記憶に残るものが多かったように思います。

 まとめ。企画の根本に疑問を感じる作品。作品全体のクオリティが上がってきているだけにそこの不安定さというか、はっきりしない様子にもったいなさを感じます。どういったものを目指すのか、まだ模索中なのでしょうか。ただ、逆に言えば伸びる余地はあると思うので期待したいです。
 お気に入り:シャーリィ・ウォリック、白鹿愛莉
 評点:65

 以下はキャラ別感想。ネタバレ要注意。







1、真咲・ガイヤール
 うーん。もともとケモノ娘にあまり関心がないということもありますけど、それにしてもちょっと弱いものを感じました。なにより個別に入ると共通より魅力が低下しているように見えるのが厳しかったです。「わふふ」とか好きだったんですけどねぇ。普通に教え子の方が良かったデスヨ。まぁ、主人公のせいもだいぶあるとは思いますけど。何がペットならOKか。しかも、それが教師という職業に就いているゆえに出てきた発想って頭がおかしすぎますわ。

2、天霧夕音
 変すぎる教え子。本当に困ります。頼むから勘弁してくださいと何度も言いたくなりました。しかも、結局は奉仕の精神は特に意味はないという絶望感。一体どういうことなんだ、と本当に問いただしたくなりました。ドSと腹黒に超絶恥ずかしがりが同居するというものすごい違和感。最後までそれはおかしい、という感覚しか持てませんでしたよ。まるでついていけません。これだけ全然、違う話みたいでしたねー。この物語で他の学生がやる気をなくさないのがすごい不思議でした。最初から最後まで夕音しか見ていませんでしたよ、この教師。

3、白鹿愛莉
 最初はちょっと苦手かなー、と思ったのですがコロコロとよく変わる髪形にすっかりやられてしまいました。愛莉は最も印象が変わるヒロインですからねー。何気なく変わってくれるところがまた良かったです。これくらい髪形にバリエーションがある作品って珍しいですよね。こんな従妹がいると色々と危ないと思います。まして、ひとつ屋根の下で暮らすなんて誘惑に耐えるのが大変です。それにしても、スマホの使い方を教えたくらいしか好きになるきっかけがないのは残念。

4、シャーリィ・ウォリック
 夕音との違いは変だけど可愛いところ。後はあんまり実害がないあたり。夕音は実害があり過ぎますて。まぁ、同人誌のモデルも害がないわけではないですけど、機会はとても少ないですからね。可愛いと感じるようになると鼻血イベントがとても楽しく見られるように。イベントとしてはくどいくらいのはずなのになぜか、微笑ましく感じられるという。鼻血が出るか出ないかが意外と分かれていて、いつも気にしてました。真咲のツッコミが十分機能していたのも忘れてはいけない要素だと思います。というか、このツッコミは真咲の魅力のひとつと思っていたくらいですから。ああ、真咲シナリオに物足りない一因はこういうところにあるのかもしれないです。日常がほとんど切り取られてしまってましたからね。
 唯一、主人公の過去がきっちりと語られるシナリオだけに特別感は強いです。イントロにも伏線のようにシャーリィと出会っていますからね。正直、他のヒロインに何もなさ過ぎてちと気の毒になるくらいです。物語としてしっかり機能しているのはシャーリィシナリオくらいですからねぇ。おまけに立ちCGの段階からエロいと隙がありません。

5、ティア・ホーエンヴェルフェン
 おかしなところがチャームポイントと書くと身も蓋もなさ過ぎでしょうか。でも、そうなんですよねぇ。慌てふためいて自爆する様子が実に楽しい。恋仲になってからも違う場所でそうした姿を見せてくれるのがまた趣深いです。それにしても、エルフの部屋にコタツがある風景はまたシュールですね。SDカットまであるあたり外せない要素なんでしょうか。

6、火宮木乃香
 彷徨人の設定がすごくどうでもよく処理されてしまって残念無念。結局ただの日本人ですた。というオチには脱力するほかなく。一体、何のために仕込んだ設定とキャラなんでしょうねぇ。物語的に真打ちか、なんてとんだ買いかぶりでしたよ。