ナメクジの飼い方
ナメクジの飼い方を記した文献が見当たらないので、ナメクジを飼いたい人のために、ナメクジの飼い方を記します。
ただし、より良いナメクジの飼い方もあるかもしれません。
1.容器等
 ナメクジを実際に飼う前に、まず容器を準備しておいた方がいいでしょう。
 スーパーで売っている1人前サラダ(100円程度)のカップが丁度良いと思います。あまり大きい容器でも、無駄なだけです。
 百歩譲って、穴が開いてなくて、蓋のできる容器であれば、何でも構いません。穴が開いていると、穴から逃げます。ナメクジはカタツムリと違って殻がないため、わずかな隙間からでも逃げ出せます。
 ナメクジを多数飼いたい時には、カップを多数用意しておくと、掃除(後述)の時に便利です。
 ジャムの壜は、蓋の開け閉めの際にナメクジを挟んで殺してしまう可能性があるので、大きなナメクジを飼う時以外はお勧めできません。また、深さがありすぎて、容器の掃除が面倒です。
 容器の他に絶対必要なのは、ティッシュペーパーのみ。竹串と割り箸も準備しておくといいでしょう。また、プラスチックのスプーンも、産卵後に使用します。
2.捕獲
 ナメクジを飼うには、ナメクジを捕獲する必要があります。ペットショップには売っていません。(万が一、ペットショップにナメクジが売られていたら、それは特殊なナメクジ様ですので、ここに書いてあるような飼い方はしない方が無難です。)
 ナメクジは梅雨頃によく発生します。土肌の近くの壁を見れば、発見できるでしょう。
 梅雨時以外でも、植物の多い場所には案外います。真冬には、まず見かけませんが。
 ナメクジの時季にもかかわらず、ナメクジが見当たらない場合には、ナメクジの好むもの(後述)を地面に置いて、待ってみましょう。
 ナメクジを捕まえるのに、網などは必要ありません。指でつまむのが一番です。初心者には割り箸の使用をお勧めします。今後のことを考え、ナメクジ専用割り箸を準備しておくのもいいでしょう。
 いろいろな大きさのナメクジが発見できた場合は、小さめのものを捕まえると、長く飼うことができます。また、大きめの野生ナメクジは、見た目があまり可愛くありません。
 捕獲したナメクジが土などで汚れている場合は、水洗いしましょう。この時、気をつけないと、下水に流してしまいます。また、あまり長いこと水に浸していると、ナメクジは死ぬかもしれません。当然、洗剤で洗うのも、いけません。
3.飼育容器のセッティング
 無事、"これ"というナメクジを入手し、キレイにしてやったら、とりあえずナメクジは容器の蓋に乗せておきましょう。しかし、あまり長いこと目を離していると、どこかへ行ってしまいますので、チラ見しながら次の作業を行いましょう。
 カップの本体に、ティッシュペーパーを敷きます。100円程度のサラダのカップならば、ティッシュペーパー1組(薄いの2枚)を2回(左右中央と上下中央)畳んでカップに入れ、水道水をジャッと入れます。ティッシュペーパー全体に水が回ったら、余分な水を捨て、指で浮いているティッシュペーパーを押さえます。
 セッティングは、以上です。慣れれば1分もかかりません。
4.ナメクジを容器に入れる
 ナメクジがまだ蓋の上にいれば、そのまま容器に蓋をします。この時、ナメクジを容器の蓋と本体の間に挟まないように。
 ナメクジがどこかに行ってしまったならば、探し出して、容器に入れて蓋をします。この時も、ナメクジを容器の蓋と本体の間に挟まないように。
 ナメクジを納めた容器は、冬ならば暖かく、夏ならば涼しい、そして比較的暗い場所に置いて下さい。真っ暗である必要はありません。しかし、コタツの中には入れないこと。布団の中も、やめておいた方がいいでしょう。決して、乾燥しそうな場所には置かないこと。
5.エサ
 ナメクジによって好き嫌いがあるので、一概には言えませんが、まあ何でも食べます。ただし、味の濃いものや酸味のあるものはナメクジの命を脅かしますから、与えない方がいいでしょう。
 ナメクジはビールの匂いが好きだ、と言われますが、ビールを容器の中に入れると、溺れて死にます。ビールでティッシュペーパーを湿らせてやる、ぐらいに留めておきましょう。
 花や葉や茎や農作物を食べる害虫(虫ではありませんが)と言われるため、野菜を好むように思われがちですが、案外、肉も好きです。他の動物を飼っている方は、ドッグフードやキャットフードなどを与えるのもいいでしょう。特に、猫用カリカリをよく食べます。ただし、ナメクジ1匹につきカリカリ1/2粒も入れてやれば十分です。ナメクジの大きさと気温にもよりますが、カリカリ1/2粒で1週間は持ちます。食べ尽くしたら、翌日にまた1/2粒入れてやる程度でいいでしょう。
 小振りのナメクジや子供のナメクジには、魚のエサをあげるのも簡便です。
 野菜では、キュウリの尻が好まれます。種が見えるくらいの部位をあげて下さい。キュウリの頭は好みません。無論、キュウリの中間部分も好きですが、それは人間が食べましょう。
 味の濃いトマト(プチトマトなど)は、ナメクジを殺します。分別のある大人ナメクジでない限り、あげないで下さい。
 茹でた野菜は長持ちしないので、あげない方がいいです。茹でる前の切れっ端をあげましょう。ただ、冷凍インゲン(水で解凍したもの)を好むナメクジも、いないわけではありません。
 ま、とりあえず何かあげておけば、気に入れば食べる、気に入らなければ食べない、というだけです。たまに、ティッシュペーパーも食べます。
 それだけに、「うちのナメ子ちゃんはチーズケーキが大好物なのよ〜」とか「うちのナメ男くんはカツ丼に目がなくてねえ」などと会話に花が咲くことでしょう。
6.換気
 夏場は毎日かそれ以上、冬場は隔日程度で、蓋を開けて、換気をします。
 蓋をパカッと開けて、しばらくしてから蓋を閉めればいいだけです。この時、ナメクジを容器の蓋と本体の間に挟まないように。
 急いでいる時には、蓋をパカッと開けて、鼻で息をしないようにして容器の中にフッと息を吹き込んで、蓋を閉めるだけでも構いません。この時も、急いでいるからと言って、ナメクジを容器の蓋と本体の間に挟むことのないよう、気をつけて下さい。
 ナメクジは基本、外で生活している生き物ですから、淀んだ空気が嫌いです。空気が淀んで、エサが傷んでとろけたりカビたりしていて、さらに糞にカビが生えていたりすると、かなりの確率であっと言う間に死にます。
 換気しないまでも、毎日もしくはそれ以上、飼育容器を覗いて、様子を見てあげて下さい。
7.掃除
 飼育容器は、冬場ならば週1回、夏場なら週2回以上、掃除をしましょう。
 エサが傷んだり、糞にカビが生えたりする前に掃除できれば理想的です。逆に言えば、「6.換気」の際に何かにカビが生えていたら、掃除するようにすると、無駄がありません。
 大きなエサ(キュウリなど)を入れておくと、ナメクジが内部に潜り込んでいることがあります。そういった場合は、エサを手で割り、ナメクジを掘り出しましょう。ナメクジが小さくて掘り出しにくければ、竹串を使ってみて下さい。ただし、竹串でナメクジを突き刺さないこと。また、エサを割る時に刃物は使わないこと。いくらナメクジでも、包丁で分断されれば死にます。
・容器が1つしかない場合の掃除方法
 蓋にナメクジを乗せておいて、食べ残しと湿ったティッシュペーパーを捨て、容器本体を洗い、新しいティッシュペーパーを敷いて、水で濡らし(「3.飼育容器のセッティング」参照)、ナメクジを入れます。その後、蓋を洗い、容器に蓋をします。この時、ナメクジを容器の蓋と本体の間に挟まないように。
 容器には大概、糞がついていますので、水でよく洗って下さい。指でこすれば、糞は洗い落とせます。
・容器が2つ以上ある場合の掃除方法
 新しい容器にティッシュペーパーを敷いて水で濡らし(「3.飼育容器のセッティング」参照)、ナメクジを入れ、容器に蓋をします。この時、ナメクジを容器の蓋と本体の間に挟まないように。その後、ゆっくりと汚れた容器を洗います。洗った容器は、窓辺に干しておくと、次回の掃除の際に使用できます。(濡れた容器にティッシュペーパーを上手く敷くのはイライラします。)
8.容器に入れてやると良いもの
 ナメクジの容器に入れてやるべきものは、濡れたティッシュペーパーとエサ、ですが、さらに身を隠す葉などが入れてあると、ナメクジも安心します。ただし、観察や掃除の際には邪魔です。
 セロリの葉を入れておくと、容器内の空気がいつまでも新鮮です。しかし、日にちが経ってとろけたセロリの葉は、扱い難くもあります。
 ハムスター用の回し車を飼育容器に入れても、まず意味がありませんので、無理はしないで下さい。あと、ナメクジは猫用ネコジャラシにも興味がありません。さらに言えば、ナメクジは"取って来い"はできません。
9.死に様
 思わぬ拍子にナメクジは死にます。急に寒くなった時、異常に暑くなった時、空気が悪かった時、エサが腐っていた時、等々。
 年を取って死ぬ場合には、だんだんと動きや反応が悪くなってくるので、「ああ、死期が近いんだなあ」と思えますが、急に死ぬことの方が多いのが現実です。
 しかし、ナメクジは普段、そう動きません。死んだナメクジと、生きているんだけど動いていないナメクジとを、どう見分けるか。
 結構、簡単です。完全に死んだナメクジは、白っぽく濁った色になります。そして、固く、棒状になります(ぬらぬらはしています)。もしくは、溶けます。そして、臭くなります。(生きているナメクジそのものは臭くありません。)死んで間もないナメクジは、やはり固くなり、白っぽくはなくとも、つややかになっています。
 そんな状態になってしまったら、諦めて、埋めるか捨てるかトイレに流すかして下さい。「うちのナメちゃんを何とかして!」と獣医に連れていっても、死んだものは生き返りません。
 まだ生きているけど、どうも病気みたいだ、というナメクジを獣医に連れていっても、獣医はナメクジの治療法を知りませんから、連れていくだけ無駄です。
10.産卵と孵化
 ナメクジは雌雄同体、だったっけかな、ともかく雌雄の区別はなく、1匹だけで産卵できます。
 あるナメクジが産卵するかどうかは、運でしかないと思います。経験から言うと、カリカリを多くやっている場合に卵を産むことが多い気がします。まあ、理論的にも、卵を産むためにはタンパク質が必要ですからね。あと、「結構でかくなったなあ」と思った頃に産卵します。
 ナメクジの卵は、無色透明で綺麗です。直径2mmくらいの球体で、ちょっとつまんだぐらいでは割れません。
 飼育容器の中に卵を見つけたら、別の容器にティッシュペーパーを敷いて水で濡らして、プラスティックのスプーンか何かで卵を移しましょう。できるだけ均等に均して(卵が積み上がらないようにして)、蓋をします。寒くはない、けど暑すぎない場所に置いておきましょう。
 無色透明の卵は、だんだんとベージュがかってきます。全体的にベージュだった卵が、ベージュとそうでない部分とに分かれてきて、ベージュ部分が次第にナメクジの形になっていきます。マジ、その様が見えます。そして、孵化します。小さな小さなナメクジが、プチッと割れた卵から出てきます。生まれたてのナメクジは、本当に可愛いですよ。
 しばらくはそのままでもいいですが、孵化したナメクジだけを別容器(「3.飼育容器のセッティング」参照)に移すと、管理しやすいでしょう。その際には、竹串を箸のように使って赤ちゃんナメクジを挟んで移動させるといいです。赤ちゃんナメクジは、小さすぎて、指ではつまめません。
 孵化した赤ちゃんが何匹いるか、書き留めておく必要があります。なぜなら、赤ちゃんナメクジは小さいので、ティッシュペーパーの隙間に入り込んで、行方不明になりがちだからです。また、原因不明でいきなり死んでしまうこともしばしばあります。
 赤ちゃんナメクジは大人ナメクジと一緒にしない方がいいと思います。食べられることはありませんが(エサがなければ食べるかもしれません)、踏まれる可能性が大きいです。踏まれても大丈夫だとは思いますが、哀れです。
 赤ちゃんナメクジには、すり潰したカリカリや、粉末状の魚のエサ(稚魚用)をやるといいでしょう。ティッシュペーパーの上に撒いておけば、それでいいのです。赤ちゃんナメクジもキュウリなど野菜を食べますが、掃除の時にひどく大変な事態に陥るので、しばらくは粉末をあげることをお勧めします。ただし、赤ちゃんの上にエサをかけないこと。エサが赤ちゃんの水分を吸い取って、赤ちゃんが死にます。
 孵化しない卵もだいぶあります。白く濁ったり、潰れたりした卵は、卵容器から取り除いて下さい。放置しておくと、季節によってはカビが生えてしまい、これから孵化しようとしている卵に影響を及ぼします(つまり、死にます)。また、待っても待っても無色透明なままの卵も、待つのに厭きた頃に捨ててしまって下さい。
 1匹の親ナメクジが産んだ卵から、経験から言うと、20匹前後の赤ちゃんナメクジが生まれます。そして、大体同数かそれ以上の卵が廃棄されます。
 赤ちゃんナメクジには、決してプチトマトを与えないで下さい。瞬殺されます。
 また、赤ちゃんナメクジは大人ナメクジより気温の変化や空気の悪化に敏感です。うっかりすると大量死しますので、気をつけて下さい。
11.厳重注意事項
 ナメクジは寄生虫を持っている可能性があります。寄生虫の卵だったっけかな。ともかく、ナメクジを触ったり、ナメクジ容器を洗ったりした後は、必ず石けんで手を洗い、流水でよく流しましょう。また、流しも洗いましょう。
 当然ながら、ナメクジを食べてはいけません。特に、生や半生では。ムツゴ○ウさんが外国の大きなナメクジを生で食べていましたが、あれはムツ○ロウさんだからできたことです。一般人は真似をしてはいけません。
 また、殖えすぎたからと言って、家で生まれたナメクジを外に放つのはやめましょう。野良ナメクジが増えると、迷惑を被る人もいるかもしれません。ナメクジでも、ペットです。責任を持って飼いましょう。
 ナメクジは滑らかな面の上では、案外素早く動きます。家の中で行方不明にならないようにしましょう。
12.名前
 ペットに名前をつけてあげるのは、必要なことです。動物側としても名前がないと不便だし、飼い主側も不便です。
 ですが、ナメクジに名前をつけても、虚しいだけです。1匹しか飼いナメクジがいない場合や、大きさの異なる2匹しか飼っていない場合には、ナメクジに名前をつけても、飼い主は自己満足できますが、あまりナメクジ数が多くなると、個体識別できません。それに、ナメクジは名前をつけてあげても、それが自分のことだと認識できません。魚やエビよりも知能が低いので、「この人が来るとゴハンがもらえる」ということすら、わかってくれません。ゴハンと飼い主の区別さえもついていないと思われます。
13.ナメクジのペットとしての有用性
 犬や猫の毛のアレルギーを持っている方でも、安心して飼うことができます。(筆者も動物の毛のアレルギーがあり、毛のある動物や動物の毛は触れない上に、動物の毛を吸い込むと喘息を起こしますが、ナメクジを飼っていて掻痒感や発疹、喘息の発作を起こしたことはありません。)
 散歩させる必要がないので、足腰の弱った方でも気軽に飼うことができます。
 飼育コストが安いので、貧しい生活の中でも飼うことができます。
 飼っていたナメクジが死んでしまっても、すぐに新しいナメクジを(その辺から取ってきて)飼うことができますので、何にせよ安心です。
 また、そのため、飼っていたナメクジが死んでしまっても、そう悲しくありません。火葬にする費用もかかりません。
 鳴いたり騒いだりすることがないので、ペット不可の賃貸住宅でも飼えます。近所迷惑にもなりません。
 狭い場所でも飼えますから、親に黙ってこっそり飼うことも可能です。
 このように、ナメクジは飼いやすい上、見ていて和めます。特に赤ちゃんナメクジの愛らしさは、飼ってみなければわかりません。
文責;伊達 梶乃