正しく楽しい応用化学
序文
応用化学の醍醐味は、文字通り“応用”することにある。しかしながら、高等学校及び大学で学ぶ化学には、全くと言って良い程“応用”が見られない。それは何故か。恐らく“応用”が難しいからであろう。それが“応用”である故に“基本”より難しい。だが有り難いことに、昨今の児童・学童・学生の化学(科学)離れが著しいため、出来る限り興味を持ってもらおうと、最近の教科書等は「身近な化学現象」を大々的に取り上げている。この「身近な化学現象」は、“応用”化学に他ならない。
敢えて文部省認定の教科書に教えられなくとも、身の回りには化学現象が渦巻いている。勿論、物理現象も数限りなく存在している。ただ、それに気づくか気づかないかの問題である。
「学校で習った化学は難しかった」と言う人が多い。それは、基本を習ったから、難しく感じたのである。普通、高等学校で学ばされる化学は、国語に譬えるなら“漢字を覚え、語句の意味を覚える”といった段階、英語に譬えるなら“英単語・英熟語を覚え、その意味を覚える”といったレベルなのである。つまり“化学”という世界の共通語を覚えさせられるだけで、普通なら嫌気が差してしまう。嫌にならず言葉を習得できた者だけが、その言葉を活用できるのである。活用の基本が、物質量やPV=nRTといった計算である。更にそれを充分に活用できるようになると、楽しい“応用”が待っている――筈なのだが、活用練習は延々と続き、日常生活とはどんどん掛け離れていくのが、大学の化学の授業の実態なのだ。
つまり、本当の“応用”化学は、誰も教えてくれず、自ら習得しなければならないものなのであり、その手助けとなるのが本書である。本書は大学で化学を学んだ者のレベルで作られているが、専門用語を除けば、誰にでも楽しく読める読物であろう。本書を参考に、生活の中に存在する化学を見つめ直してみようではないか。
できるかな溶液(のっぽさん、ゴン太、つかせのりこを含む)の定性分析
原理
できるかな溶液の定性分析を、吸光光度法を用いて行う。いろいろな波長で測定すると、3つのピークが見られる。
A.つかせのりこのピーク。500nm程度で現れ、顕著なピークである。
B.ゴン太のピーク。590〜610nm。ピーク幅は広いが、高さはない。
C.のっぽさんのピーク。700nm前後。鋭いピーク。
方法
@ 試料(濃度1.0mol/L f=0.98)を250mLメスフラスコに5mLとり、水でメスアップする(A液)。
A 10mLメスフラスコ6本に、それぞれA液を1、2、3、4、5、6mLずつとり、水でメスアップする(B液)。
B 各B液を、500nm、600nm、700nmで測定し、つかせのりこ、ゴン太、のっぽさんについてのεを求める。
設問
ゴン太とのっぽさんのピークの間に、ごく稀にではあるが、段ボール箱で作った電車を動かすためのスタッフ(♂。通常2個体で1対となっている)のピークが現れることがある。このスタッフは仏頂面という性質を持っている。この性質を利用して、できるかな溶液からスタッフを単離精製せよ。
解答
溶液に刻んだ段ボール箱を加えると、のっぽさん以外が沈殿する。沈殿に魔女っ子メグちゃん溶液を加えると、つかせのりこがノンとして溶出する。残りの沈殿にテレビカメラを向けると、ゴン太は慣れているので溶けるが、スタッフは拒否反応を起こすため沈殿のままである。その後、純粋となったスタッフ沈殿を水洗・空気乾燥する。
スターリング・ノース溶液からの結晶状ラスカルの単離
方法
@ スターリング・ノース0.5molを水500mLに溶解する。
A 約半量になるまで煮詰める。市販のスターリング・ノース(JIS特級>99.0%)には不純物として服が含まれているが、これは水と共に蒸発する。
B ラスカルとスターリング・ノースは電気的な力で結合しているため、電解法を用いるとよい。今回は電極として、トウモロコシを用いる。トウモロコシに電着したラスカルは、光エネルギーによって溶液中に沈殿する。
C 重力濾過を行った後、沈殿をビーカーにとり、水50mLを加える。シロツメクサの種10粒を入れて攪拌し、花が咲いたらロックリバー水7mLを加える。沈殿ができたら、結晶が自転車のカゴに収まる程度の大きさになるまで、加熱・熟成させる。この時、木の切り株の粉末2gを加えると、幾何異性体であるアライグマが溶出する。
D ビーカーに黄色結晶が晶出する。その後、氷浴にて溶液を冷却する。この時、微かに白と黒の結晶が認められる。これは尾なので、不純物とは見なさない。尾が溶液中に認められない時には熟成が足りないので、さらにロックリバー水3mLを徐々に加え、加熱する。(尾は冷却しないと晶出しないので注意すること。)
E 充分に冷却できたら、吸引濾過する。じむりじんじむ液少量で洗浄し、結晶に混ざっているアライグマを除去する。結晶はビーカーの底で軽く押して、できるだけ水分を取り除く。この時、力を入れすぎると、口を開けて威嚇することがあるので注意する。
F 結晶を濾紙上に広げ、空気乾燥を行う(昇華の惧れはない)。6月の風に当てると、尚良い。充分な大きさのラスカル結晶は逃げようとするが、その場合は首に紐をつけ、実験者の手首に巻いておくと良い。この乾燥中、ラスカルを汚染する可能性が高いので、注意を要する。ラスカルの毛が柔らかく、フワフワしてきたら乾燥を終了し、重量測定の後、収率を計算する。
設問
(1) @の溶液は何色か。においはどうか。pHはどの程度か。
(2) Aでの色の変化を調べよ。
(3) Bでラスカルは陽極に析出するか、陰極に析出するか。
(4) ロックリバー水を加えると、溶液はどうなるか。
解答
(1) この時はまだ服が付着しているので、服の色。においは、やはりノートにこぼれたインクのにおい。pHは、ぬるぬるしていないので弱酸性(pH6〜6.5)。
(2) 服が蒸発するにつれ、溶液の色は肌色に近づく。ただし、所々オレンジ色、黒、白が混ざっている。
(3) ラスカルは、溶液中では空腹状態で存在する。そのため、トウモロコシ電極からトウモロコシ電子を与えられて、電極上に電着する。従って、析出するのは陰極である。
(4) シロツメクサの花が咲くと、粗結晶は溶解する。ここにロックリバー水を加えると、神様ありがとうの力により、ラスカルだけが沈殿する。この時アライグマが吸着するのは、アライグマは独りでいられないからである。
付
Q.神様ありがとうの力は、次のいずれか。
1.van der Waals力 2.共有結合 3.水素結合 4.キレート結合 5.その他
A.5.その他(愛の力)
M87鉱石に含まれるウルトラ兄弟の単離
目的
M87鉱石はほとんどが黒色であるが、所々に赤と銀の部分が存在する。この部分にウルトラ兄弟が含まれている。これを湿式法により、それぞれを単離する。
方法
@ M87鉱石1kgを破砕し、乳鉢で充分に擂り潰す。この時“ジュワッ”という悲鳴が聞こえるので、実験者はイヤーウィスパーの着用を忘れてはならない。
A @の粉末を1Lビーカーに移し、濃硫酸20mLを加えて、よく攪拌する。M87鉱石は硫酸には溶けないが、ウルトラ兄弟は発泡して溶ける。このビーカーを静置して、上澄液だけを100mL丸底フラスコに移す。液は赤色で、しばしば銀色にもなる。
B Aの液を蒸留する(沸石を入れること)。留出液は硫酸と、ウルトラの父とウルトラの母を含む。留出液を限外濾過するとウルトラの父と母が単離できる。残留物に地球の粉末1gを加えると溶解するので100mLビーカーに移す(沸石は除去する)。
C Bの液を3分間放冷すると、ウルトラ兄弟が沈殿する。ここにゼットン1molを加えるとウルトラマンとゾフィーが溶出するので、重力濾過する。濾液を、流星マークを電極にして電解すると、ウルトラマンが析出する。残りの液を蒸発乾固すれば、ゾフィーが得られる。
D Cの沈殿を再び濃硫酸に溶解する。ここにBDバッヂを7個入れると、塩析効果により、ほぼ純粋な団次郎が析出する。重力濾過で団次郎を分離する。粗・団次郎にタッコング結晶3粒を混合すると、帰ってきたウルトラマンに変換される。
E Dの濾液に、冥王星で採取した南夕子0.8gを加えると、ウルトラマンAが吸着・析出する。この沈殿を熟成してから吸引濾過する。得られた結晶を、少量の月隕石溶液で洗浄し、南夕子を除去する。
F Eの濾液にはウルトラセブンとウルトラマンタロウが含まれているが、この2つは互いに従兄妹であるため、分離しにくい。そこで、この液にヒッポリト星人1molを加えると、ウルトラセブンがブロンズ像となって沈殿する。遠心分離を行い、上澄液を他のビーカーに移してペギー葉山5.3gを加えれば、ウルトラマンタロウが沈殿する。
高分子合成
〔T〕トン吉、カン太、チン平モノマーから、ポリよっちゃんを合成する(溶液重合)
試薬
モノマー(トン吉、カン太、チン平);各10mL
開始剤 KAV(カブ);0.04g
溶媒(サリーちゃん);50mL
石油エーテル、すみれちゃノール
方法
@ 三口フラスコに3種のモノマーと溶媒と開始剤を入れ、よく攪拌して開始剤を溶かす。
A フラスコ内に攪拌棒を入れ、コンデンサーをつけ、湯浴(70〜80℃)で10時間、加熱し続ける(系内に水が入らないように)。加熱中、絶え間なく、フラスコに向かって「よっちゃん」と呼びかける。
B 加熱終了後、フラスコ内の溶液を石油エーテルに投入する。ポリよっちゃん(緑色粘性のある高分子)が石油エーテル中で得られる。粗ポリよっちゃんには未反応モノマーが含まれているため、すみれちゃノールに粗ポリよっちゃんを溶かし、再び石油エーテルに投入し、精製を行う。
〔U〕ポリよっちゃんフィルムの作成
方法
@ 精製ポリよっちゃんを真空乾燥し、その0.08gを試験管に入れ、すみれちゃナール2mLに溶解する。これをシャーレに移し、90℃の乾燥機ですみれちゃナールを蒸発させる。
A このフィルム(厚さ10〜20μm)を用いて、IRを測定する。
B 同様なフィルムをもう1枚つくり、X線測定を行う。
※ すみれちゃノール、すみれちゃナールは可愛いので、取り扱いには充分な注意が必要である。
海水中のトリトン含有率の測定
目的
日本海の海水と太平洋の海水について、トリトン含有率を測定する。
原理
海水にはトリトンの他、ポセイドン、ピピ、ルカ、あるいはポセイドン(バビル二世)、008(サイボーグ009)等が含まれる。トリトン量は、これらの量に左右される。他番組成分が多いほど、トリトン量は減少する。理論式として、
が考えられる(相律 f=P+C-2 も同時に成り立つであろう)。ここで、Mは分子量、Nは物質量、nは同番組成分の数、mは他番組成分の数、添字Tはトリトンを表す。
しかし、実験的にはトリトンの単離が非常に単純な手順で行えるため、実際にトリトンを単離・測定し、モル濃度表示を行うのが簡便である。この際、海水に塩化ナトリウムが含まれているのを見落としがちなので、注意せねばならない。
方法
@ 海水100mLを用意された半透膜容器に入れる。
A その容器を純水に浸す。この時、ピピ、ルカ、ポセイドンは容器外へ出るが、トリトンと他番組成分は容器中に残る。
B 半透膜容器から分液漏斗に試料を移し、塩酸でpHを3〜4にした後、四塩化炭素を加え、有機層にトリトン他の有機体を抽出する(サイボーグは水層に残る)。
C 有機層を100mL枝付きフラスコに移し、蒸留する。トリトンは50℃で留出する。これをビーカーにとり、収量を測定する。(トリトンは沸点50℃、融点-3℃である。)
D 得られたトリトンにオリハルコン1粒を加えても桃色の蛍光を発しない時は、トリトンは純水中に残っていると思われる。これは、ピピ、ルカ等の成分とトリトンとの結びつきが強いためである。この場合は、Aで廃液となった純水を半透膜容器に入れ、昆布のダシ汁に六尺ふんどしの細切れと生きた鯉を加えた容器に浸す。トリトンは純水中でふやけたピピやルカに嫌気が差し、人間の生活に戻るべく、昆布のダシ汁に移る。(この方法は、他番組成分を取り除いてから行わなければならない。)
E ダシ汁中のトリトンの分離には、鉄鍋(南部鉄使用)を用いる。ダシ汁を鉄鍋に入れて、弱火で3時間強、加熱する。トリトンは鉄イオンと結びつき、灰汁となって浮かんでくる。これを水に掬いとり、硫化水素水を加える。硫化水素水は、灰汁が全て溶解するのに充分かつ最少量を用いなければならない。鉄イオンは硫化鉄(U)となって水の中に沈殿する。重力濾過し、濾液を蒸留する。トリトンは相変わらず50℃で留出する。得られたトリトンの重量を測定する。
ピンポンパン粗結晶からの、カータン、新兵ちゃん、及びビッグ・マンモスの単離
方法
@ ピンポンパンの粗結晶50gをビーカーにとり、濃硝酸50mLを注ぐ。結晶が完全に溶解したら、水200mLを加える。
A pH12になるまで1mol/L 水酸化ナトリウムを加える。この時、白沈を生じるが、これは水酸化体操のお兄さんと水酸化ガンちゃんなので、濾別する。
B さらに塩酸を加えていくと、塩化お姉さんが沈殿する。お姉さんは度々代がわりをするため、1価、2価、3価等、各価数のイオンが存在し、塩化物イオンは過剰量必要となる。塩化お姉さんの沈殿結晶はごく細かいので、目の細かい濾紙を用いて沈殿を濾別する。
C Bの濾液を0℃以下に冷却すると、ビッグ・マンモスは集結して、aromaticな性質を示すようになる。予め冷却しておいたクロロホルムでビッグ・マンモスを抽出する。有機層に移ったビッグ・マンモスは、40℃の湯を注ぐことによって、個別化し、水層へ移る。
D Cのビッグ・マンモス溶液を弱酸性にし、固形の“火の玉ロック”と“イナズマロック”、“ぼくらは未来のベーブルース”、“こぐまのテディ”を正確に等モルずつ加え、氷冷しながら攪拌すると、ビッグ・マンモス結晶が得られる。
E 水槽の中央を半透膜で仕切り、電源の+極側にアンパンを、−極側にキュウリを接続する(電極となるアンパンとキュウリは、新鮮なものを用いること)。この水槽に、ビッグ・マンモスを除去した試料溶液(カータンと新兵ちゃんを含有する)を均一に注ぎ、0.1Vの電圧をかけ、3時間放置すると、電気泳動によりキュウリ電極(−極)側にカータンが、アンパン電極(+極)側に新兵ちゃんが移る。電圧をかけたまま、ピペットで溶液をビーカーにとる。
F カータン溶液(溶液が弱塩基性であることを確かめよ)に固体のケロヨンを加え、ケロヨンが完全に溶解するまで、よく攪拌する。モグラの鼻先を液に浸し、ケロヨン・ヨーデルを歌うと、反塩析効果によりカータン結晶が沈殿する。
G 新兵ちゃん溶液を中性にし、固形アンパンを加える。塩析効果により、アンパンマンの足元に新兵ちゃん結晶が沈殿する。
奥付
正しく楽しい応用化学
発行;The A'-Team 内設 学術アカデミー科学技術部門
代表者;Melrose & Primrose
発行年月日;1995年8月19日
執筆者プロフィール 〜 Melrose & Primrose
大学で応用化学を学ぶ。化学教育のあり方に疑問を抱き、在学中より執筆活動を行う。現在は仕事の合間に『Chemical
Affinity』に筆を加えるも停滞中。「沈黙」と書こうとすると「沈殿」と書いてしまう後遺症に苦しんでいる。