67号 おわりの挨拶
The A'-Team
お楽しみいただけましたでしょうか。
それではまた、夏にお会いしましょう。
【おしまい】
「こんにちは、フェイスです。今日の夕飯はハンバーグかスパゲッティミートソースかって言われてたのに、挽肉を買い忘れました。なので、挽肉の代わりになるものがないかとキッチンを探しましたが、缶詰のヒヨコ豆とツナ、あと、天カス(何これ?)しかありません。何とかなるの、これ?」
と、そこにマードック登場。 「何とかなるぜ! 何たって豆は畑の肉で、ツナは海のチキンだからな。」
「畑の肉ってのはいいが、海のチキンだあ? ハンバーグだってミートソースだってチキンじゃなくてビーフだろ。」
マードックの発言を聞いてコングが鼻息をブフーッと吹いた。
「そんなに肉に拘るなら、コング、ちょっとスーパー行って牛挽肉買ってきてくれない? あとシーズニングも。」
と、コングに迫るフェイスマン。 「断る。」 即答するコング。
それじゃ、とフェイスマンが視線を流すと、急にトイレに立つハンニバル。マードックは……ダメだ、ヒヨコ豆とツナでハンバーグかミートソースか、あるいはその両方を作る気満々で、挽肉買い出し部隊としては戦力外すぎる。
フェイスマンが逡巡している間にも、マードックはヒヨコ豆の缶詰を開け、中身をボウルに移すと、スプーンで豆を潰しにかかった。しかし、缶詰のヒヨコ豆は、潰すには結構固く、スプーンでマッシュしようとしても、つるんピョーンと飛ぶのみ。缶詰のヒヨコ豆を潰すには、一旦よく茹でてからマッシャーもしくはヘラで潰す必要があるというのに。
案の上、つるんピョーンと飛んだ1粒のヒヨコ豆が、ビシッ! とコングのモヒカンに飛び込んだ。 「痛っ! 何しやがんだモンキー!」
大袈裟に叫ぶコング。 「えっ、痛いわけないじゃん、当たったの髪の毛だろ?」 と、マードック。
「髪を通り越して地肌に当たったんだチクショウ! 大体、豆でハンバーグたぁどういう料簡だ。肉を食わせろ、肉を!」
「そこまで言うなら行ってきてよ、コング。」 フェイスマンがそう言って、コングの胸にエコバッグと財布をグイッと押しつけた。
「断る。」
エコバッグと財布をぐいぐいと押しつけ返すコング。負けじと押し返すフェイスマン。ヒヨコ豆をつるんピョーンと飛ばしながらも減っていくボウルの中身をスプーンでマッシュし続けるマードック。そろそろいいだろうとトイレから戻ってきたハンニバルがパンパン、と手を叩いた。
「お前さんたち、いい加減にしませんかね。そうやってる間にも、夕飯の時刻は近づいてきてるんだ。」
「でも、ハンニバル、コングが買い物に行ってくんないから。」 「買い物はお前さんの役目だろう。買い忘れてきた責任を取ったらどうだ?」
ハンニバルに言われて、フェイスマンは渋々とエコバッグおよび財布を持ってこの場を出ていった。
「モンキーも、その飛んだ豆、拾って洗ってサラダにでもしとけ。」 「ラジャー。」
半ば追い出されるようにアジトを出たフェイスマン。
「あー、スーパー遠いんだよなあ。肉屋も近くにないし。どっかで手に入んないかなあ、挽肉。」
とぼとぼ歩くフェイスマンの目に、1軒の雑貨屋が飛び込んできた。そこには、『ヴィーガン用代用肉あります』の文字。 「代用肉……代用?
……でも肉…………うん、肉!」 フェイスマンは、イソイソとその雑貨屋に吸い込まれていった。 「いらっしゃいませぇ。」
雑貨屋の店員は大変スタイルがよかった。見惚れたフェイスマンは成分表示を確認することなく 「ヴィーガン用代用肉1袋。」
と注文した。 「ご一緒にノンアルビールはいかが?」 「いいね! いただこう。」
フェイスマンが残念な買い物をしていることなど露知らず、マードックはザルを小脇に抱えて豆を拾い集め、コングはハンニバルに言われてタマネギを刻んで涙を流し、ハンニバルはツナ缶を開けて、冷蔵庫からマヨネーズを取り出すと、ツナの上にむにゅるーと絞り出して、フォークでざっくり混ぜて食べ、うん、と頷いた。そしてふと、天かすの袋を見つけ、ツナ&マヨの上にざらざらと振りかける。それはハイカロリーですよ、大佐。
そして、天かすを振ったツナマヨを一口。 「う、美味い。」 ハンニバルが唸った。 「ちょっとお前たち、これ食べてみろ。」
2人に天かすツナマヨを差し出すハンニバル。 「えっ、何コレ美味い。」 スプーンで掬って口に運び、目を輝かせるマードック。
タマネギと格闘していたコングは涙目で首を横に振った。 「俺はそういう邪道なもんは……。」 「いいから食ってみ。」
マードックにスプーンを捻じ込まれ、もぐもぐごっくんしたコングの目がピカーンと輝いた。 「何だこりゃあ。」
その悪魔的美味さに驚いたコングだったが、刻んでいたタマネギ(ハンバーグもしくはミートソース用)の一部をさらに細かく刻むと、指先で摘まんでハンニバルの方を振り返った。
「これも混ぜていいか?」 「もちろんですとも。」 リーダーの承諾を得て、コングは天かすツナマヨに刻みタマネギを少々混ぜ込んだ。
「胡椒も合うはずだぜ!」
と、マードックが胡椒を数振り。ハンニバルが注意深くツナを混ぜる。じっと見つめる部下2名。混ざったツナを一口食べ、ハンニバルが恍惚の表情を見せる。もう言葉には表せない。
夕食時を過ぎ、空腹であった3人は、天かすツナマヨに合いそうなパンを切ってトーストし、テーブルセッティングをしてフェイスマンの帰りを待った。もちろん、飲み物もグラスも用意して。
「フェイスの奴、遅いな。」 と、コング。 「先に食べ始める……わけにも行かないか。」
「いや、しかし、ちょっとだけなら……。」
と、3人が逡巡しているその頃、フェイスマンは、美人店員とノンアルビールで話し込んでいたのであった。
「よし、あと5分待って帰ってこなかったら、先に始めよう。」
ハンニバルの決断に、コングもマードックも頷いた。ハンバーグもスパゲッティミートソースもないが、我々には最強のツナマヨ with
トーストがある。 「シャンパン開けちゃう?」 マードックが冷蔵庫からフェイスマン秘蔵の1本を取ってきた。
そうしてAチーム−1名が最強のツナマヨとトーストおよびシャンパン(コングは牛乳、濃いやつ)で夕食を終えた後。
「ただいま〜、遅くなっちゃってごめーん。」
とフェイスマンが帰宅した。しかし、彼が見たものは、テーブルの上に乗った食器類と秘蔵のシャンパン(空)および、ザルに乗ったヒヨコ豆のみ。
「え、挽肉買い忘れただけで、この仕打ち?」
フェイスマンは、しばし呆然とした後、溜息をついて腕を捲り、汚れた皿を洗い始めたのであった。
と、その時、画面の外から紙片を挟んだ竹の棒がそろそろとフェイスマンの方に近づいてきた。皿を洗う水をキュッと止め、濡れた手で紙片をピッと取り、フェイスマスが振り返る。
「さて次回は『モンキーと畑のミートソース』、『コング、スーパーに行く』、『ハンニバル、利きノンアルビールに挑戦する』の3本です。ふんがっふっふ。」
ザルに残っていたヒヨコ豆を一掴み頬張ったフェイスマンが、豆を喉に詰め、口を押えてしゃがみ込んだ。
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