63号 おわりの挨拶
The A'-Team
お楽しみいただけましたでしょうか。
それではまた、夏にお会いしましょう。
【おしまい】
「フェイスです。二日酔いです。昨夜3軒目のバルに行ってからの記憶が……あれ?」
「あれ? じゃねえだろ。夜中に玄関のドア、バンバン叩きやがって、安眠妨害って言葉知らねえのか? 担いでベッドまで連れてってやったら、手にピンチョス握ってやがって。」
そう憤りながらコング登場。
「ああ、それで、起きたら口の中しょっぱいし、ベッドの周りに爪楊枝とミニトマトが散らかってたのか。それはそうと、俺、財布どこやったっけ? コング知らない?」
「俺が知るわきゃねえだろ、どっかで落としてきたんじゃねえか? もしくは、財布とピンチョスを間違えて持ってきたか。」
「ハハッ、まさか! 財布とピンチョスを間違うなんて、いくら酔っててもないない。」
「そうは言うがな、記憶がないだけでフェイス、お前さん、酒癖が頗る悪い。」
どこから会話を聞いていたのか、洗面所のドアがばーんと開いて、歯ブラシを手にハンニバル登場。
「作戦上の情報収集で飲む時ならともかく、自由時間に飲んでる時のお前さんは最悪だぞ。昨夜だって、あたしは2軒目の途中で愛想尽かして帰ったんだ。」
「ごめん。その時、俺、財布持ってた?」 「知りませんよ。“払いはこの男が全部持つ”って言って店を出ましたからね。」
ハンニバル、静かに怒ってる。 「オイラだって知んねえよ。」 と、ここでマードック登場。
「確かに3軒目まではついてったけど、フェイスが、俺が選んだピンチョスのことを、それはピンチョスじゃない、タパスだ! ってしつこく責めるから、面倒臭くなって先に帰ったもん。」
「知らなかった……俺はピンチョスとタパスに一家言ある男だったのか……。」 「どっちかって言うと、絡み酒な男なんじゃねえ?」
やれやれとお手上げポーズのマードック。 「パンに乗ってんのがピンチョスで、乗ってねえのがタパスなんじゃねえか?」
コングがぼそりと、誰にともなく呟いた。 「ところで、これが寝室に落ちてたんですけどね。」
ハンニバルがシャツの胸ポケットから紙片を取り出した。歯ブラシを持っていない方の手で。 「何? もう次回予告?」
「いやそりゃねえだろ、まだ早いぜ。」
その紙を見ると、まず「水割り」と書かれていて、その下に数をカウントしていく4本の縦線とそれらをまとめる1本の斜め線が描いてある。その数、18。
「18! あはははは、飲みすぎ! 俺、飲みすぎ! 知ってた? 俺、飲みすぎ。18杯じゃ酔っ払うよね! 当たり前〜。」
フェイスマンが、そう言ってハンニバルの肩をばんばん叩いた。 「残念、17杯だよ。1杯はオイラの。」 「そっかあ。17杯かあ。」
「立派に飲み過ぎだな。」 和やかな空気が流れ、スン、とフェイスマンが肩を落とした。 「で、俺の財布、どこに行ったんだろ?」
「そうさな、3軒目のバルで聞いてみちゃどうだ?」 と、その時、電話がジリリリリと鳴った。近くにいたハンニバルが受話器を取る。
「あー、もしもし。……ああ、はい、おりますよ。フェイス、お前にだ。」 「俺に? 誰から?」 「昨日行ったバルの店員。」
「財布だ!」 小走りで駆け寄って受話器を取る。 「はい、お待たせしました。はい、はい……ええ……。」
肩を落とすフェイスマン。 「済みません、すぐにお支払いします。」 そして、電話を切った。
「財布、見つかったけど、近所のスーパーのポイントカード以外は小銭しかなかったって。カード類、別の財布に入れといてよかったわ。」
「で、18杯分が未払いなのか? よく帰ってこれたな、お前。」
ハンニバルが呆れて言った。水割り18杯分に加え、ピンチョスの代金も未払いである。いや、もっと飲み食いしたかもしれない。だが少なくとも、水割りは18杯分未払い。
「そこはほら、夜中のバルなんてドア開けっ放しだし、道までテーブル出てるから、ふらっと帰ればわかんないじゃん?」
「上手いことふらっと帰れる奴が、財布忘れるなってんだ。」
「いやコング、ホント、その通り。……あれ? バルの店員、何でここの電話番号わかったんだろ?」
「それな、バルのウェイトレスに電話番号渡してたぜ。紙ナプキンにボールペンで書いてさ。」
マードックの容赦ない証言がフェイスマンを襲う。 「俺、そんなことを!?」
「あんだけ酔ってて、正確に電話番号書くってすごくねえ? ここに電話かかってきたってことは、間違いなく書いてたってことだしよ。」
感心したようにマードックが言う。それもこのアジト、来て2日目である。普段使っていない部分の脳味噌に電話番号簿が入っているんだろうか。
「それはともかく、財布に小銭しか入ってなかったって、バルで財布落として中身盗まれたのかな?」
「1軒目、現金で払ってたからじゃないですか? きっと2軒目も現金払いだったんでしょ。」
酔っ払いの行動をしっかりと見ていたハンニバルが発言。 「え、俺、カードで払ってなかった?」 「現金でしたよ。」
「カードで払うとポイントつくのに!」 「現金の方が足がつかなくていいだろ。で、これから払いに行くのか?」
「……行かなきゃダメだよね? 俺、今、すっごい頭痛いんだけど。」 と言って、フェイスマンの眉毛がいつも以上に下がる。
「行った方がいいだろうな。電話番号も割れてるし。」 とハンニバル。 「そっか。やっぱそうだね。じゃあ、お金貸して。」
手を差し出すフェイスマン。 「あたしが現金持ってるわけないでしょう。」 「先に言っとくと、オイラも持ってねえよ。」
「ちっ、仕方ねえ。ここは俺が出すしかねえか。ってえか、銀行行って現金引き出してくりゃいいだろうがよ。」
そう言いながらも根は優しいコング、ズボンの尻ポケットからナイロンの財布を出し、面テープをバリッと剥いで中を見た。
「何だこりゃ? レシートか?」 見覚えのない紙片を見つけて取り出し、ニヤリとする。 「次回予告だぜ。」 「どれ。」
とハンニバルが紙切れを取り上げた。
「次回のAチームは、『二日酔いにはコーヒー? それとも迎え酒?』、『譲れない戦い〜ピンチョスvs.タパス』、『バルでの美しい踏み倒し方』の3本です――だそうだ。ふむ、ピンチョスと言えばだな――ふんがっふっふ。」
ハンニバルの話が長くなりそうな気配を察知し、フェイスマンがミニトマトをハンニバルの口に突っ込んだのだった。
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