美談
1999.10.12作成
文責:飯島麻夫

ウォーナー氏に関しては、国内に法隆寺、京都東山など6カ所に記念碑や胸像が創られている。京都や奈良は歴史的に価値の高い文化財が多いので、爆撃しないように米軍に進言したとされる人物で、戦後の日本では国をあげて英雄扱いしたらしい。
私もいつだったか、おそらくは学校の授業中にこの逸話を耳にして、アメリカにも見上げた人がいるものだ...などと思っていた。

ところが...私も知らなかったのでまだ知らない人も多いことだろう。

ウォーナー氏が京都を爆撃しないように提言した事実はないし、それどころか京都は当初原爆投下の第一目標として選定されていて、しかも終戦前日には京都を目標とした原爆投下リハーサルまで行われ、準備万事整っていた、という我々の常識に反した驚くべき事実が、詳細かつ疑いようのない証拠とともに、この本に記されている。

原爆投下の最大目標であったからこそ、焼夷弾爆撃などを間逃れることができたのだ。事実、広島も長崎も原爆投下以前、B29による大規模な爆撃は行われていない。

私は長崎にも、広島にも、京都にも住んでいたことがある。今は東京に住んでいる。「東京に原爆」ならまだ許せる(東京は何度でも復興できる都市なのだ)が、「京都に原爆」という事態だけは考えたくない。それだけ日本人にとって京都は特別な場所なのだ。

そんな世界一美しい街、京都も「鬼畜米英」にとっては原爆投下実験の対象に過ぎなかったとは、なんともショッキングな話である。たぶんアメリカ人は野蛮なので美的感覚など持ち合わせていないのだろう。

しかも、ウォーナー氏の美談が祭り上げられた理由というのがまた馬鹿げている。対共産圏戦略の必要性から是が非でも占領を成功裏に納める使命を帯びていたGHQ、の対日本人情報操作機関=CIE、が故意に流したデマだったのだ。

さて、このようにデマと真実を見分けることは、よほどの人でも不可能なことに近い。
しかも、嘘の情報であっても、真実であっても、事情を詳しく知らない一般の人間に及ぼす効果にまったく違いはない。

だから、美談とか、英雄談とか、可哀相だとか、やたらセンセーショナルな話題に関してはひとまず冷静に対処することが肝要だと思う。
あわてて銅像などを造ったりしたらあとで恥をかく。

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