ワイルド・スワン
1999.02.18記入 → 1999.02.20修正
文責:住吉麻美

この本を読まずして中国は語れない。なんてひでえ国だろう。

著者が「ガリバー旅行記」の「卵は必ず先のとがったほうから食べなければならない。違反したものは死刑に処する。」という風刺を読んだときに「この小説を書いた人はなぜ中国のことを知っているんだろう」と疑問に思ったという。文化大革命時代の中国ではこの手の話は決してばかげた風刺ではなく、目の前の現実だったのである。

しかし我々にとって、毛沢東は規律のとれた人民解放軍を組織し、中国に共産党支配の規律をもたらした偉大な指導者、というイメージさえ持っている人さえいるのだろうが、とんでもない。やっていることは秦の始皇帝と大して変わらないじゃないか。

この筆者の場合、父母ともに若い頃から共産党の活動にエネルギーを注いできた中国共産党幹部なので、特に彼らが毛沢東の個人的な野望のために直接の攻撃目標となった「文化大革命」および毛沢東に対する憎しみは非常に強そうだ。とはいうもののそれを差し引いたとしても毛沢東が極悪人の暴君であった、という事実は曲げられないように思う。

毛沢東が死んだとき、国中の酒が売り切れになったと言うから、醜い誹謗中傷、足の引っ張りあいを演じながら「毛沢東万歳!」を叫んでいた国民の大部分が、心の中では「ひどい時代になったものだ」とひそかに思っていたのだろう。

しかし、このノンフィクションを読んで、やはり家族の絆と言うのは非常に強い。不幸になればなるほど、また外敵が多ければ多いほど、家族の絆というものは強まるものなのだろう。

日本で家族のつながりが希薄になって、父親が邪魔もの扱いされるような傾向があるのは、日本が平和で豊かになりすぎたからだろう。今の日本なら娘一人で家出したところで何とか生きていけるんだから。

山川の世界史にはこのノンフィクションに記述された時代について下記のように記述されている。非常に適確にまとまっていると思うが「ワイルド・スワン」とは若干認識のズレが認められる。

「中華民国は懸案であった租界などの回収や不平等条約の撤廃をすすめるとともに、国際連合の常任理事国に加わって重要な地位を占めるようになった。また1947年には新憲法を発布し、翌年将介石が総統になった。しかし国民党の内部では腐敗や汚職がはなはだしく、経済も悪化して国民政府は大衆の支持を失った。一方、戦争中から新民主主義をとなえて農村を中心に着々と地盤を固めていった中国共産党の毛沢東は、民衆から信頼と期待を寄せられるようになった。
大戦末期から進行していた国民党と共産党の対立は、戦後再び表面化し、激しい内戦を開始した。国民党軍は次第に不利になり、1949年12月、将介石は台湾にのがれ、その地で中華民国政府を維持した。いっぽう、内戦を有利に導いた中国共産党は、49年9月、国民党以外の民主諸勢力を北京に集結して人民政治協商会議をひらき、10月1日、毛沢東を首席、周恩来を首相とする中華人民共和国の建国を宣言し、北京を首都とした。中華人民共和国政府は土地改革を行なって土地を農民に与え、外国資本とそれに結びついた財閥を排除した。また53年から第一次五か年計画によって農業の集団化を工業建設に着手し、さらに54年には最初の憲法を発布した。(以上は正しい。)

中華人民共和国では1958年、毛沢東が「大躍進」と称して、工・農業の発達を期し、人民公社による大規模な集団化などを推進したが、経済が混乱し生産も減退した。59年毛沢東にかわって国家首席となった劉少奇は集団化の規模を縮小し、個人の利益に訴えて生産の増大をはかる政策をとり、それによって経済はようやく復興した。また、64年核爆発実験に成功して、5番目の核保有国となった。
(本書によると「大躍進」は農民も農業をせずに鉄を集める、という馬鹿げた鉄集めキャンペーンで毛沢東の現実離れした妄想が原因。当然ながら農業生産力は著しく停滞した。)
ところが1965年から学者や芸術家への圧迫がきびしくなり、66年にはそれが政府要人の失脚にまで発展した。同年夏には紅衛兵造反団などの組織が出現して、政府や党の要職にある人々(実権派)を厳しく非難し、同年末にはついに劉少奇が攻撃の的となった。この文化大革命は、劉少奇による経済復興政策を資本主義の復活とみなした毛沢東が、軍の指導者林彪とむすんで劉打倒をはかったもので、国家主席制は廃止され、中国共産党の一元化指導に改められた。
(「文化大革命」は毛沢東が自分の絶対的な権力を確個たるものにするために劉少奇や共産党の実力者たちを排除しようとした政治キャンペーン)
1976年、首相周恩来、党主席毛沢東があいついで死に、その後江青らの「四人組」が逮捕されるクーデタをへて、結局華国鋒が首相兼党主席となると、新政権は文化大革命の路線を大幅に修正して、国防・工業・農業・科学技術の「四つの現代化」をめざしてすすむことになった。

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