Cecil Ousset
Claude Debussy Works for Piano
セシル・ウーセ/ドビュッシー・ピアノ名曲集
(徳間ジャパン)TKCC-15149
ピアノのために(全3曲)
金色の魚
アナカプリの丘
花火
西風の見たもの
半音階のための
組み合わされたアルペジオのための(練習曲集より)
雨の庭
枯葉
喜びの島
上に書き写した選曲は注目に値する。こういう選集的アルバムの邦
題はたいてい「名曲集」になってしまうものだけど、このディスク
には「月の光」も「亜麻色の髪の乙女」も入っていない。フランス
出身のピアニスト、セシル・ウーセによるこのアルバム、選曲は際
立って意識的で、有機的な関連付けがなされたものだと思う。ほと
んどすべてが、ドビュッシーのピアノ曲でもとりわけ「細かな音符
の多い」ものばかりなのだ。単に演奏上、技巧的な作品という意味
ではない。それは響きの感触からの分類の視点である。
細かな音符の集合とそのひと続きの繰り返しが、霧のような効果や
響きの持続の統一感を形作るという、ドビュッシーのピアニズムの
ひとつのグループに属する作品群。その音の霧のなかに模様を縫い
取るように、旋律を取る音が小節をまたがりながら少しずつ配置さ
れていくという形の音楽が、このディスクに集められている。たと
えば複雑な綾を織る<組み合わされたアルペジオ>の中から大粒の
旋律が浮き立つ。「西風の見たもの」でも同様の旋律の現われる姿
が見られる。細かな音価によって作られたアーチ型音形の根元ある
いは頂点に置かれたアクセントを繋ぎ合わせることでメロディを形
成するという共通点を持ちながら、音楽の感触としては全くタイプ
の違うこの2曲が並べられていることの意味を味わいたい。
そんな選曲の中にあって、ひときわ目だって和音的な『枯葉』。線
の音楽ではなく、垂直の厚い和音が連なる曲を最後から2番目にひ
とつだけ置くということが際立った効果をあげている。この曲を収
める『前奏曲集』第2巻のなかでも目立たない、しかしきわめてニュ
アンスに富む作品だが、この目だたない控えめさが逆転的に強い存
在感を示す。この曲のカギは冒頭のひとつの和音だろう。滴り落ち
るとたちまち揮発する高純度のアルコールのように透明な、瞬時の
響き。常に重くなりすぎることのないウーセ独特のタッチ・音色が
生かされた、全ての音が見通しよく聴こえるこの一瞬、一曲は、線
の音楽をめぐって聴かせてきたこのディスクにおいて、ピアニスト
の、そして和音家ドビュッシーのもうひとつの重要なピアニズムを
みごとに伝える。この1曲の存在によって、かえって作曲家の本領
である和声の魅惑が強調されることになるのだ。
セシル・ウーセは契約レーベルのEMIに80年代以降かなりの数の録音を残
しており、最近レッドライン・シリーズ(国内盤は1,200円)という廉価盤か
らの再発が盛んである。なおこのディスクはウーセがEMI以前に録音してい
たドイツ・シャルプラッテン・レーベルからの再発売(国内盤は1,000円)で、
同レーベルからも高品質・高音質なCDが多数リリースされている。このディ
スクは1967年の録音ながら、時間の経過をまったく感じさせない美しい響き
が楽しめるものになっている。
2002 shige@S.A.S.
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