Claude Debussy
Preludes Book1&2
前奏曲集 第1巻・2巻
Catherine Collard (piano)
カトリーヌ・コラール
(RCA,1993)





カトリーヌ・コラールの弾くドビュッシーを聴いていると、フラン
スのピアノ演奏の伝統、まず旋律をしっかり歌わせるということを
改めて思い出す。ドビュッシーの音楽は、ごくシンプルな旋律のま
わりをとり囲む響きの充実がその本質のひとつだけれど、和声の複
雑さに比してあまりにもメロディ・ラインが簡素なものであるだけ
に、彼の音楽においては旋律を聴くことは副次的なことであると、
思われがちである(もっとも、歌曲<=メロディ>作家としての仕
事を見れば、ドビュッシーが一流の旋律作家であることはすぐにわ
かることである)。

たとえば、前奏曲集第2巻「霧」。細かな分散和音がちりばめられ
た楽譜のなかにも旋律は連綿と息づいている。そのアルペジオの一
音一音のつらなりが、時間的には引き離されてはいるものの、旋律
なのだ。コラールはそれを聴かせてくれるピアニストだ。ドビュッ
シーのピアノ音楽の演奏面での難しさは、伝統的な伴奏対旋律の左
手/右手の関係とは次元が違うほどに複雑な書法から旋律を拾い上
げ、歌わせることなのだろう。そのまさに歌うということにおいて、
出色の演奏であることは間違いない。

伸びやかな明るい音色、確固とした音楽的土台(ビート)に裏打ち
されたなかでの自在なテンポの揺れ、そのルバートと対照するリズ
ムの切れの良さ。旋律の背後に常に寄り添うかすかな匂いのような
和音の再現。演奏家のこれらの美点があらゆる瞬間に鳴っている、
歌のある演奏である。きらめく旋律とにじむ和音という、彼のピア
ノ音楽の魅力をまず知りたいのなら、まさにそのとおりに輝きと陰
影の共存の奇蹟ともいえるこのディスクを。

追記:
録音の翌年、94年の急逝があまりに惜しまれる。若い頃の録音にはシューマ
ンが比較的多く残されているようだが、晩年の演奏から想像できる『映像』他
のドビュッシーが聴きたかった。

July 2 2000 shige@S.A.S.





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