Ode to Richard

エイフェックス・ツイン

彼は多作だ

テクノが作りやすい音楽だからでなはくて
そんなはずはない
ちょっと作ってみれば痛感すること
だって
歌詞も、ギターソロも、「転調してもう1回サビね」
みたいな
そんな音楽の要素をひとつずつ取り払った裸の音響の音楽が
それでもなお誰かの何かを動かす音楽
つまり「結晶体のような」高純度のテクノが
簡単なはずがない

ミニマル・ミュージックやアンビエントのような
シンプルな音楽ほどいいものが生まれにくいのは
いままでの音楽の言語にあんまりにも頼れないから

「退屈だけど、いいね。踊れるかも。眠れるし」

リチャード君は、それをやってしまえる
彼の音楽は

多作
優しさ
イノセンス
よろこび
ある意味で、「孤高の芸術」ではないこと

これじゃあ、まるでモーツァルト
もう神童って呼ばれてきたけど

本当は彼はクラブ・カルチュアとはまったく別のところで
音と戯れたいだけなのかもしれない
音を作る機材と/機材で遊ぶことも
シンセを改造し自作する彼

回路だけでケースを持たない彼の改造機材は
だからクラブへは持ち込めないらしい*

あまりにも繊細な機材。持ち主と同じに

自室にこもって、内的世界ばかり覗き込み
音を拾ってきてつなぐ男
確かにそういう一面もある、かもしれない

でも彼の世界は
コスモスと一応は呼ばれているあの空間へと
リンクしているのだろう
多くの人が共有する空間。共鳴できる空間
個性的世界が、こんなに売れる
これはつまり、テクノの可能性
個人の宇宙が普遍になる
これはつまり、アーティストの条件

2枚のアンビエントを聴きながら
硬質な無色の、半透明の、虹色の
鉱物を見る思いがまたしてもよぎる
このレコードで踊るなんてもったいない
自分の無意識の領域に遊び、
ぼんやりとチル・アウトしてしまうのも

それよりも
ヘッドフォンを耳に、色とりどりの結晶を凝視したい
そんな音楽

*David Toop "ocean of sound" (Serpent's Tail,1995)
p.209より

April 1999

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