アンビエントとリラクゼーション
アンビエント=リラクゼーション・ミュージック? アンビエントはいつから
「やすらぎ」の音楽を意味するようになったのか。リラクゼーションとアンビ
エントに一定の関係は認められるにせよ、それはこの音楽の持つ機能のひとつ
に過ぎないのではないだろうか。
「アンビエント」「環境音楽」という言葉が日本でポピュラーな存
在になってきたのは、おおよそ1980年代中頃だったろうか。こ
れはアメリカを中心とするいわゆる「ニューエイジ・ミュージック」
のムーヴメントが日本へ波及したことが主な要因だったけれど、そ
れでは、そんなコピーが付された(あるいは、それ的イメージを間
接的に付与された)ディスクはどんなものがあったのか振り返って
みよう。これらはCDのカタログ、リーフレットやレコード店頭な
どでよく見かけた(今でも見つかる)ものだ。
・「ニューエイジ・ミュージック」
・「α波・θ波の発生を促す」音楽
・精神安定・瞑想のための「マインド・ミュージック」
・自然環境音を収録したCD「せせらぎ」「波の音」など
・クラシック、あるいはポピュラー名曲の編曲集
(いわゆる「イージー・リスニング」や「BGM」)
そんな音楽の響きの特質としては、
・静的なインストゥルメンタル音楽
・瞑想的な音楽(民族楽器、特に東洋系)
・自然環境音(アンビエント・サウンド)
・優しい女性ヴォーカル
・ストリングス中心のオーケストラ
・ピアノ(あるいは、ピアノ・アンサンブルかピアノ+オケ)
といったあたりだろうか。
で、これらの音楽のかなり多くのものに対して「アンビエント」と
いう呼称が与えられているという現状がある。
こうしたことの要因として、
「やすらぎの音楽」=「環境音楽」「アンビエント」
という図式があると思われる。上に挙げたような音楽に特徴的な音
素材とその扱い方は、つまりどれもが、リラクゼーションとの関わ
りを持っている。
確かに「アンビエント」ディスクの多くはその静けさや変化の少な
さから、総じては退屈になりうると同時に心地よい感触を持つ。し
かしここで確認しておきたいのは、結局のところ、アンビエントを
リラックスするために聴いたり、それを目的にアンビエント的音楽
を作ることは可能だが、こうした音楽の機能とその享受という関係
性から生じた結果は、アンビエントの一側面に過ぎないと考えたほ
うが、現状を的確に説明したことになりそうだということである。
最近ではクラシック音楽をアレンジするのではなく、そのままのオ
リジナル演奏の音源を集めたリラックス用のコンピ盤が多いが、こ
の現象もリラクゼーションできる音楽をすべてアンビエントと言い
得ないことを表わしている。マーラーの緩徐楽章を、一体だれがア
ンビエント・ミュージックと呼ぶだろうか?
そう。「リラックスできるかどうか」という判断基準とアンビエン
トの定義は無縁であると言えそうだ。
しかし、アンビエントを「やすらぎの音楽」と一度「仮定義」する
のであれば、クラシックをはじめあらゆる音楽に、やすらぎの鉱脈
は発見できるのだから、今後もこうしたリラクゼーション・コンピ
は生まれる可能性はなくなることはないのかもしれない。
ある音楽の仕上がりの「結果」、つまり本来の制作意図はどうであ
れ、最終的な出力としての響きがどんな感触を持っているかという
ことと、その音楽へのリスナーの反応との関係には断絶が生じるこ
とは避けられない。それだけに、
「ある音楽をある人が聴いてリラックスした」
という事実のひとつひとつを、リラクゼーションとしてのアンビエ
ントという「結果論」として音楽それ自体とは別に考えることが、
音楽をありのままの姿で捉えることと、同時に聴き方の自由を保証
するためのポイントとなるのではないだろうか。
・h o m e・
・ambient top・