□pulse


John Cage
"Ryoanji" (1985)
for bass trombone and percussion obligato
(ETCETERA,1992) KTC 1137

cover

ずばりタイトルはケージが多くのインスピレーションを得た龍安寺。
これは「バス・トロンボーンとパーカッション・オブリガート*のた
めの」作品だが、一聴した印象ではむしろトロンボーンがパーカス
のリズムの背景にオブガートを付けているように聴こえる。カチ、
カチと2回鳴る金属と鉱石をぶつけた(スコップで石を掘り当てた
ときの音に聞える)ような音が、一定時間ごとの音によるマーキン
グ(=目印。耳印?)のように繰り返され、全曲を統一する。この
目立って聞えるパルスは何だっただろう。思い当たるのは今では料
亭にでも行かなければちょっと見かけない、鹿おどしだ。

鹿おどしの次の<かこーん>までの間というのが、聴覚の緊張感を
高め、静寂はより深く、竹林のざわめきはよりリアルにという、こ
の音響装置はある種の感覚鋭敏化ツールであったけれど、そういう
ものを文化的背景に持つ日本人は、こういう作品を理解しやすいし、
あるいはまさにその背景によって過剰に解釈したりもするかもしれ
ない。
しかし聞えてくる音にだけ目を向けるなら、それはちょうど水墨画
の余白が、この単色モノクロの世界に潜む無限の階調に意識を向け
させるように、パーカッションの響きのブランクが、環境へと開か
れた鋭い聴覚と緊張感を聴き手にもたらすことになるとは、少なく
とも言うことはできそうだ。

*オブリガートとは旋律を受け持つ楽器や声楽パートに寄り添うような付随的な声部のこと。
英語'oblige'と同源だが、いつからか補足的なものを意味することになった。


1999 shige@S.A.S.
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